契約彼氏と恋をする | ナノ
いつも別れを見つめて



「黄瀬、マジバで食ってかねぇか?」


 部活後、半額券を持ってるとかなんとかで笠松先輩に夕飯を誘われた。


「いいっスね!行きまし……あー」
「?」


 先輩直々のお誘いについ即答してしまったが靴を片足履いたところで、はたと気付いた事がある。


「オレ…今日先約がいたっスわ」


 だからごめんなさいと、先輩に両手を合わせて頭を下げた。


「先に予定が入ってんなら仕方ねぇや」
「マジですんませんっス…」
「いいよいいよ森山誘うから」


 気にするなの意味を込めてひらひらと手を振ると、笠松先輩は森山先輩のもとへ歩いて行った。


「……どれ、オレも行きますか」


"彼女"のもとへ。








「………あれ?」


 体育館を出て直ぐにメールした時には、校門の前でもう待っていると返信が来たのに、あのブロンドのロングヘアが見当たらない。


「おかしいな」


 もしかして裏門と間違えたのだろうか。念のため裏門も覗いてこようと来た道を戻るため振り返った。



「黄瀬くん」
「!」


 振り返った瞬間、目の前に女子が1人現れた。現れたというか、声を掛けられるまでその存在に気付けなかったのだ。
 女子の肩につくかつかないかぐらいの茶髪がふわりと風で舞っている。


「どうしたの?帰ろうよ黄瀬くん」
「え、あの…えっと?」


 誰だ、と思った。今まで数々の女の子に声をかけられて来たけど、こんな強引な逆ナンは初めてだ。


「あ…ど、どちら様、っスか?」
「へ?」


 オレが本気で困惑していると、女子は反応に困ってるオレを見上げて不思議そうに首をひねっる。


「え、あー…分かんない?ほら、私。仕事ではウィッグをかぶってるから……」
「あ…あー!」


 耳にかけていた髪を下ろして前髪を横に流し、するとその長さこそ違えど確かに見知った顔がそこに有った。


「橘川先輩!」
「ご名答。それじゃあ帰ろうか黄瀬君」


 ふんわりと笑う彼女に腕を引かれ、オレも歩き始めた。


「………」
「………」


 まずい、何か会話をしなければ。
 歩き始めてたった数分しか経ってないはずなのに、早くも気まずい雰囲気がこの空間を征してる。何か…何か会話を。


「あの先輩…」
「なに」
「マジバ、マジバに行かないっスか?」


 そう言って、「しまった」と思った。この手のファーストフードは食べにくいうえに高カロリーだから女子が選びたくないデートスポット第一位。


「マジバ?別にいいよ」


 しかし彼女はそういった事は気にしないタイプらしく、あっさりと了解した。


「………」
「………」


 また沈黙が続いてしまった。なにか、何かないか…。マジバに付くまで続きそうな話題はないか。


「そういえば黄瀬君」
「…なんっスか?」


 再び続いた沈黙を破ってくれたのは先輩の方だった。


「黄瀬君はドラマとか、初めてだったよね」
「そうっスよ」
「台本って書き方独特だからさ」


 読み込みに四苦八苦してるんじゃないかと。と、彼女は控えめに言った。


「あーまあ……」
「やっぱりね。私も最初そうだったもん。だから、」
「だから?」
「私が前に使ってた台本とか、書き込みしたやつがあるから貸してあげようかなって」
「!」


 ゴニョゴニョと喋る先輩。そうかこの人はオレに興味が無いとか付き合うのがめんどくさいとか、そんなんじゃなくて単に会話するのが苦手なんだと分かってきた。それが分かっただけでも嬉しい。よかった、嫌われてるわけじゃなかった。


「めっちゃ嬉しいっス!」


 思わず手を握って喜んだ。
 先輩がただの人見知りだって分かったのもあるけど、何よりそのさりげない気使いが。


「ああ、でも……」
「?」

「"彼氏"が終わったら返してね」

「あ……はい」


 もしかしたら、なんて淡い期待を一瞬持った自分がいた。けどやっぱりソレは気のせいか。




∴いつも別れを見つめて


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