狂う程の一途な思いは
「ねえどうしたの名前。君の真っ白なはずの首が青色だ」
そう言って、征十郎はオレの首に指を這わせた。
痣になったところを執拗に触るから、ただでさえ痛いのにその上煩わしい
「可哀相な名前。僕が今すぐ赤くしてあげる」
カッターシャツのボタンを上から2つ外して鎖骨にその歯を押しあてた。
「痛いよ」
征十郎の整った歯がオレに印をつける。彼の瞳より鮮やかな液体が白いシャツを染め上げた。
「それでいいんだよ。この傷を見るたびに、僕を思い出してくれる。この傷に恐怖して、僕だけに従順であればいいんだ」
君は僕のモノだ。と、耳の傍で囁いて、垂れた液を舌でぬぐいとった。
切れた皮がさらに捲れあがる。
「それ、隠しちゃだめだよ」
最後にもう一度ガリリと耳の犬歯を立てて、征十郎は部室を出ていった。
ああ、痛い…赤いものが吹き出すそこがドクンドクンと脈を打っている。
痛くて痒くて掻きむりしたくなった
「……何やってんだ名前」
「大輝」
床に背中と後頭部を預けて四肢を投げ出したまま惚けてると、汗でペッタリとした青い髪がオレの顔を覗いた
「アカ…」
オレの赤くなったシャツを見て忌々しそうに大輝は呟く。
「待ってろ。今消してやるから」
すると大輝は救急箱を開けて消毒液を取り出した。
「何する…ぅわ!」
新品の消毒液のキャップを外して、それをオレの傷口へ振り掛けた。
痛みがさらに増した。
「だいたい流れ落ちたな…」
次にスポーツドリンクで血を流してしまった。とうとう感覚がマヒしだす。
「まったく。せっかくオレが青く飾ってやったのに、ちょっと目を離したスキに"コレ"だ」
「っ…」
傷を指の腹でゆっくりなぞられる。やっと止まった傷口からまた鮮血が流れる感覚をうけた
「名前はオレの物だってあれほど教えてやったのによ。もう忘れちゃったか?」
「くっ、か……」
なら思い出してやるよ。と、大輝の褐色の手が首を押さえ込んだ。
息が、できない。
「オマエは、オレのバスケの相手さえしてりゃいいんだよ。なあ名前。それがオマエの幸せだろ?」
「だ、い…き」
滲む視界の中に、アオとアカが笑ってるように見えた。
狂う程の一途な想いは
(君を襲う刄になった)
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