ここで会いましたのも縁
前日作成し吊り下げて置いた、てるてる坊主のご利益があったのか、久しぶりの休日である今日はあり得ないくらいの晴天だった。ここ二、三日続いた雨がウソのように。
「よし全員揃ったな?」
私服姿で集まった木吉、伊月、小金井、水戸部とそれぞれと目を合わせると応じるように頷いた。ちなみに土田は彼女とデートらしい。おのれツッチー。
「まあツッチーの事は置いといてーオレたちはストリートだ!」
「ああそうだな小金井」
今日、近くのスポーツ専門店で開催されるストリートの大会。そこでオレたちは優勝し、部費を稼いでこなこればいけない。他ならぬカントクの願いならばやってこないわけにはいかない。
「そういえば日向、黒子と名字は呼ばなかったのか?」
「ああそれがな伊月。あいつらはあいつらで予定があるらしい」
「ふたりで?」
「そう言ってたぞ」
「………ふーん」
気になるねそれ。と小金井の目が光った。ダメだぞコガ。この貴重な休日に二人が何をするのか大変興味沸くけどね、でもカントクの命令には逆らえない。負けたら練習3倍なんて鬼畜過ぎるからな。
「あ、もしかしてあそこにいるの名字じゃないか?」
「はあ?何言ってんだ木吉、名字は黒子と……って居たよ」
黒子と名字が、スポーツ専門店へ繋がる道を真っ直ぐ歩いていた。
ついでだから、少し尾行してみることになった。見つかったら見つかったで、どうってことないし。
「本当だ」
「オレたちに気付いてないみたいだな」
「あいつらもストバスの大会に?」
「でも二人じゃ出れねぇだろコガ」
「だよねーじゃあ普通に買い物……にしては荷物多くね?どう思うよ水戸部」
「……………」
「ふんふん、あー、やっぱり水戸部も買い物派か」
「でも黒子達のことだから、黄瀬とか青峰あたりをよんでいそう」
「それありえるな伊月」
「………あ、見失った」
やはり大会に出るんだ。いやだだの買い物だ。などと言いながら二人の後を追っていた。だが店に近づくにつれて人の量も増えていき、結局見えなくなってしまった。
「きっと店に入って行ったんだよ。さあ登録しちゃおーぜ」
「わかってるよ」
木吉に背中を強く叩かれながら受付をする。大会中はアナウンスが聞こえる場所で待機してること、おそろいのシャツを着ること、試合で負った怪我等は自己負担であるとか。いろいろと注意事項を聞く。
「では最後にこちらの紙にチーム名と出場される三名のお名前をどうぞ」
「あーはい………三名?」
「はい。本大会は一チーム三名です」
これは困った。オレは一旦ペンを置いて皆の方に振り返った。どうする?三人だってよ、オレら五人で来ちまった。
「五人で回して出るのは…」
「申し訳ありませんが…」
「ですよね」
さあどうしようか、とまた悩む。単純に三人選べばいいって問題でもない。せっかく皆で来たのだし、公式試合でも無いんだから和気あいあいとやりたい。しかし二人あぶれるとなると……
「うーん」
「あの、バスケのできるスタッフも居ますので、助っ人として出られるか確認をとりましょうか?」
「本当ですか!?」
どうする?とオレの隣で、オレと同じように腕を組んで悩んでいた伊月に声をかけた。
「いいんじゃない?せっかく来たんだし出れないよりは。なあコガ」
「うん、それスッゴくいいと思う!よかったーオレ覚悟してたんだよねー」
「コガ……」
胸を撫で下ろして笑う小金井を見たら涙がホロリときそうだった。ごめんよ小金井お前の気持ちはよくわかる。水戸部も、そっとコガの肩に手を置いていた。
「では呼んで来ますので少々お待ちください」
受付のお姉さんがこなれた手つきでメモを取ると一旦簡易テントの奥に消えた。
:
「………すみませんお待たせしました。オレで良ければ参加しますが……あ」
「あ……」
簡易テントの奥からやってきた影に、どうもこちらこそよろしくお願いします。と頭を下げようとした。しかしその影は、オレたちの良く知る男だった。
「名字!?」
「えっ主将に伊月せんぱ……って言うか先輩方お揃いでどうしたんですか!?」
「いやオレらはこの大会の優勝賞金貰いに……オマエこそどうしたんだよ」
それにさっき黒子とも居たし。もしかして二人でバイトか?まあうちの学校はバイトおーけーだけども。
でも名字もバイトなんてするなんて、意外だ。
「ま、お察しの通り。ここの店長さんに頼まれて1日だけバイトを。いやあ奇遇ですね」
「ああ本当だな」
「まったくです。じゃあ適当に人を振り分けますね
名字は慣れた手つきで、参加登録用紙に皆の名前を書いていく。きっと別の受付で仕事をしていたのだろう。
ボールペンをさらさらと動かして、オレ、伊月、水戸部を誠凛Aチーム。木吉、コガ、名字をBチームに振り分けた。まあ妥当だろう。
「ところで黒子はなんの仕事してんだ?」
「テツなら審判してますよ。影が薄いから丁度いいだろうってオレが推したんです」
「へえ」
なるほど確かに黒子なら適任かもしれない。お得意のミスディレクションを使っていれば、試合に夢中な選手達の邪魔になることはまずないだろう。それに、いざという時はホイッスルを吹けばいい。いくら影が薄いといっても笛の音ぐらいは皆にも聞こえるはずだ。
「さ、書き終わったんでコートの方に行きましょ」
「ああ」
名字に案内されてコートへ入った。オレたちAチームの相手は近所に住んでる大学生グループ。ちょっと手強かったが勝てた。
次はどこかの高校生。黒子が審判をした。快勝だった。
それから何回か勝ち進んで、準々決勝で木吉らと当たった。木吉と名字とはコンビネーションもよく小金井の器用貧乏を上手く使っていた。オレらは僅差で負けて優勝は誠凛Bチーム。
その後、黒子も呼んで祝勝会と称してマジバに食べに行った。優勝賞金の大半をそこで使ってしまったのだが、翌日のオレたちの末路は言うまでもない。
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