10万打企画 | ナノ
真実の姿は闇に消え



「名字、これはどういうコトかしら?」

『あ、いや…その……』

「どうやったらこんなことになるの?」

「んなもん、バスケに決まっ」

「あ゛あ゛ん?」

「………なんでもない…です」


創立二年目のピカピカの体育館に、解れが一つもないリングが転がっている。カントクは腕を組んで仁王立ち。オレと大輝はリングを挟んでカントクの目の前で正座をしていた。

どうしてこんなことになっているのか。
事件が起こったのはなんでもないただの休日だった。オレは部活が午後からなのをすっかり忘れていつもと同じような時間に学校に来てしまった。体育館の鍵が開いていたのが不幸中の幸い。オレはとりあえず部室に荷物を置いた。しかし何もしないでいるのは嫌だからロードでもしようと、ハーフパンツとシャツに着替えて校門を出た。
すると前方に色黒のデカい影がいた。誰かと思ったらその影は大輝で、なんで居るのかと聞いたら暇だから遊びに来た、と。まだ朝9時なのにご苦労なことだ。

そんで成り行きで体育館で1on1。最初は軽く雑談しながらやってたのにいつの間にかガチ対決になってて……気付いたらリングが壊れてた。ゾーン恐るべし。


「どっちがやったの?」

『大輝ですけど、』

「その…弁償は……」


どうすれば、と大輝が呟いた。
足が痺れてきたのかもじもじと動いて落ち着かない。それともカントクが怖くて落ち着かないのか。どちらにしても、こんなに静かな大輝を見るのは初めてじゃないか?まあ、それだけ目前の鬼の形相が恐ろしいんだろう。誠凛の部員達も身を寄せあって怯えてる。


「弁償?適当に理由付けて学校に頼むから大丈夫よ」

『あ、あざす』

「その代わり…」

「?」

「ちょっとバスケしてきなさいようちのチームと」

『「………は?」』


今、ちょっと聞き捨てならない言葉がカントクから……
これには、先輩達もびっくりなようで、視線が全部こっち向いてる。


「ちょ、カントクどういう!?」

「そのままの意味よ日向君。こんないい機会、逃がしはしないわ」


さあ準備して!とカントクは鼻息荒くして笛を吹いた。カントクの輝く目に逆らう術を持たない部員達はスコアボードやタイマーを出したりオールコート用のリングを準備したりと、マネージャーが居ないのでそれぞれ手分けして作業にかかった。おいおい、マジでやんのかよ。


「名字君は青峰君と2人、こっちは普通に5人でいくから」

『はいいぃ!?オールコートで2対5?』

「オレ、バッシュとか無いんすけど」

「火神君から借りて!」

「オレぇ!?」


驚く火神に、さっさと貸せよと迫っていく大輝。意外とやる気だった。


「さあ準備できたら青峰君名字君チームからスタート!」


ピッと景気良く鳴らされたホイッスル。オレはカントクからボールを受け取った。
えっ本当にやるの?と聞きたいが、どうせオレには拒否権なんてないだろう。


『しゃーねえなぁ』


ほら、と大輝にボールを投げた。あとはヤツが適当にシュートしても点は入る。五人抜きもお手のものだし。


『おっ、ナイッシュー』


派手な音を体育館中に響かせてリングが軋む。大輝は、鉄平さんと火神君のディファレンスをものともしなかった。

しかし大輝との試合も二回目となれば驚きも少ないようで、鉄平さんからのリスタートが早かった。ボールはすぐに伊月先輩に渡りこちらの様子を伺っている。
どうせオレたち2人しかいないのだし思い切って速攻かけてもよかったのに……と、思っても口にしない。めんどくさいから。


「君とこうやって向かい合うのはなんだか新鮮な気分だよ名字」

『ははっ、オレもっすよ伊月先輩』


で、誰に投げるんです?と冗談半分で聞いてみる。当然答えは返ってこないが、先輩の目線でだいたい分かった。火神と鉄平さんの間には大輝が待機してるので、まずこの2人にはボールは行かない。あとはセオリー通りに主将の元か、イレギュラーなテツヤか。…おそらく後者だ。


「っ!」

『おっと』


伊月先輩が動いた。ドリブルで少し距離をつめたあと、先輩はバウンズでボールを出した。
オレはボールを追うのを止めて主将のマークへ移った。テツヤのいる場所は分からない。しかし次にボールが来るのは主将だと思ったからだ。


『っしゃあ!』


主将より先に手を伸ばしてボールを奪った。ボールが飛んできた先を見れば、目を見開いて固まってるテツヤがいた。なんだいその顔は。オレが取れないとでも思ってたのか?


『すみません頂いて行きますね』


オレは、手に入れたボールを自分でゴール前まで運んだ。主将や伊月先輩は振り払うのに苦労は無かったが、火神が難関だった。


「行かせねぇ!」

『くっ…』


やばい。火神が目の前にいるのにシュートモーションに入ってしまった。このままでは火神に弾かれてしまう。どうしよう


「よこせ名前!」

『───!』


視界の隅に、駆け寄ってくる大輝が見えた。オレは無理やり体を捻らせてパスを出した。大輝はブレるパスをなんとか拾って、お得意のフォームレス。それを見た火神の舌打ちが聞こえた。おお怖い。


「何やってんだ火神!ただのレイアップぐらい死んでも止めろ!」

「ええっ、それはちょっと…」

「ていうかクラッチ入るの早いよ日向」


クラッチタイムに突入してしまった主将にたじたじな火神と、なだめる伊月先輩。コートの外では水戸部先輩がはらはらと見守っていた。


「相手は2人だ、怯むな行くぞ!」


主将の一喝に「おう」と答えた皆の雰囲気が変わった。
伊月先輩から始まって、速いパスワークで繋ぎ攻め込んできた。こう、的が行き来されては防ぎようがない。


『大輝!』

「わーってる」


ボールは鉄平さんに渡り大輝がそれを防ぐべく跳んだ。
しかし後出しの権利の前では、大輝一人じゃ厳しいところがあった。跳んだ後、鉄平さんは周りの状況を確認して、それから主将にパスを出す。スリーが決まった。


「ははっ、やるじゃねえか、おい!」


もっとオレを楽しませろ、と大輝が笑った。オレと1on1した時より全然本気になんてなってないのに、それでも楽しそうだった。本人がそれでいいなら、オレも満足してもらえるように頑張るからさ。


「もっと派手に動いてもいいのよ名字君?」

『いやあカントクそれは無理っすよ』


だってこれがオレの精一杯だし。
身長もパワーもないオレができるのは、誰よりも先に動くこと。頭を働かせ、直感を最大限に引き出し、人より速く走ってコートを制すこと。そして、影に撤することがオレの役目。人知れず、暗躍しゲームを支配する。

それが、中学で培った能力だ。

まあ今は伊月先輩がいる誠凛ではそういうことする必要なんてないんだけど。




真実の姿は闇に消え
(楽しむためには考えなければいい。勝つためには考えなければならない)

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