ジャイアニズムは止してくれ
※誠凛一年の夏休み
ただいま。と、誰もいない部屋に言葉を投げて靴を脱ぐと、オレは真っ直ぐ脱衣室に急いだ。洗濯機の蓋を開けて部活で着たTシャツやタオルを次々に放り込む。そして洗剤を入れたらスイッチオン。洗濯機は景気よく回りだした。
「よーし、飯食うかぁ…」
現在時刻はだいたい二時半。今日は午前練だったので、すぐ帰ってきた。なのに飯食うのはこんな時間。電車通学ってつらいな。
オレは軽くなったスポーツバックを肩から下げて、リビングのドアを開けた。
「よお名前。メシはまだか?」
「…………。」
バタン。とりあえずドアを閉めた。
あれおかしいな。なんか、母さんにしてはデカすぎるしガタイも良すぎるしなにより黒い……ガングロだった。詳しく言うと、先週の全国大会で準優勝になった桐皇のエース、青峰大輝だった。
「なんでお前がいるんだよウチに!」
「腹減ったから」
「そういう意味じゃねえ!!」
勢いよくドアを開け放ってリビングに入る。テーブルに座っていたはずのガングロは、勝手に冷蔵庫を開け物色していた。
漁るのを止めろ。てめえの腹なんざ知ったこっちゃねえ。
「オレが聞きたいのは、どうやってウチの中に入れたかってことだ」
そりゃあ、中学ん時度々遊びに来てたから家の場所知ってて当たり前だけどさ、今日は鍵かかってたはずだろ、ウチ。だって母さんはあちこち買い物行くからお昼は自分で、って朝言ってたし。
「だってお前、家の鍵忘れたろ」
「え?………あ、」
大輝は冷蔵庫の中からコーラを取り出して飲んだ。そして空いたもう片方の手で、鍵を摘んでチャリチャリと鳴らしていた。あれはオレの鍵だ。
「…持ってくの忘れてた」
「だろ?だから頼まれたんだよ由美さんに。暇だからさっきここ(家)に遊びに来たら、ついでに留守番よろしくって」
「マジっすか」
「マジだよ」
ありがたいような、ありがたくないような。ってか、ウチに遊びに来る前に部活あんだろうがお前は。まあ、どうせ言ったって無駄だから言わないけどな面倒くさい。
「そういうわけで、飯はまだか」
「文脈おかしいよね大輝」
帰れ、とペットボトルをあっという間に空にしてしまった大輝に言う。しかし大輝は全く聞く耳を持たない。とうとうソファーに座ってテレビも見はじめた。帰る気ゼロっすか。
「わーったよ、チャーハンでいいか?」
「ん、卵多目で」
「はいはい」
結局、自身の空腹も手助けして、大輝のわがままに根負けしたオレは二人分のチャーハンを作るハメになった。大輝も相当食うからな。茶碗5つ分ぐらいのご飯は必要かもしれない。あるかなそんなに……あ、あった。
「……テレビつまらん」
「あっそう」
「ゲームとかねえの?」
「全部お前が持って帰っただろ」
なんだ使えねえな。と大輝が欠伸を1つして、ソファーに横になった。とんだジャイアンだなまったく。
「ほらできたぞ。食え」
「おっ、サンキュー」
大輝はすぐにチャーハンに飛び付いた。いつから待っていたと聞けば、昼前だと言った。っーことは、もう三時間近く他人の家でくつろいでいたことなる。暇な奴だなあホント。
「なあ名前ー」
「ん?」
「メシ終わったら暇か?」
「まあ、暇だけど」
もぐもぐ、とテーブルで向かい合いながらチャーハンを食べる。大輝は「そうか」と呟いた。そして、何かいいことを思いついたように、米粒のついた口角をあげた。
「じゃあバスケしようぜ」
「………はあ?」
じゃあ部活行けよ。って、言っても行かないのは分かってるけどな。あえて言おうか。
「バスケするなら部活行け」
ジャイアニズムは
止してくれ
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