導く光の孤独を知った
違和感を感じたのは二年の初夏ぐらい。なんか大輝が他の選手とは"違う"と思っていた。それが確信に変わったのは全中2連覇した時。スタメンはもちろん「キセキの世代」で、オレはずっとベンチでこない順番を待ちながら試合風景を見ていた。
そして気付いたのだ。中学最強に近づくほど、大輝の顔は陰っていく…
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中学2年。全国大会も終わり、あとは来年の大会のために部活をやる毎日が続いていたある日のことだった。大輝が突然、部活を無断でサボった。
前々からサボり気味であった大輝は、やる気がないだとかマイちゃんの写真集買って来るだとか、なにかしら理由をつけて休んでた。でもこの日は違ったのだ。
「……帰る」
「え?」
大輝の言葉に、肩に掛けた着替えのシャツや冷却缶とか、部活に必要なもんが詰まったエナメルバックを危うく落としそうになった。なんで?と聞き返しても「帰る」としか言わない。
空っぽな指定カバンを持って教室を出ていく大輝を、オレは慌てて追い掛けた。いつもなら、帰り大輝を放っておいてオレは部活へ行くのだが、今回だけはダメだと思った。こいつを独りにさせたら、もう戻ってこないんじゃないかと、心のどこかで警鐘が鳴るのだ。
「じゃあマジバに行こうぜ」
「お前部活は?」
「今日は休みたい気分」
薄ら笑ってエナメルバックを机の上に雑に置く。マジバ行くのに、こんなデカいカバン邪魔じゃん。
オレが本当に部活に行く気が無いことが分かると、大輝はまた歩きだした。何も言わないということは、行ってもいいってことだろう。
「バスケは好きか?大輝」
おもむろに問えば、大輝は少し悩んでから「好きだけど」と呟いた。じゃあ練習は好きかと聞けば、嫌いだとすぐ返ってきた。
「なんで」
「なんでも、だよ」
「黄瀬とあんなに楽しそうにやってたじゃん」
「あれは……」
それっきり大輝は黙ってしまった。バスケは好きだ。部内でやる1対1も楽しい。だが練習は嫌いだ。それはなぜか?理由は多分簡単。強くなりすぎるのを恐れているんだ。強くなればそれに比例して楽しみが減る。だから大輝は練習をサボることで、なんとか帳尻を合わせようといていた。
「ま、おまえがやりたいうによやればいいさ」
強くなるのが嫌だなんて贅沢な悩みだよな。思っても絶対そんな事いわない。言っちゃうと、多分大輝はもうオレと話してくれなくなるだろう。大丈夫、そういうとこちゃんと分かってるからさ。
「そろそろマジバだけど、何食うんだ名前」
「あー何食うかな。オレあんまり金持ってねえし」
「じゃあなんで誘ったんだよ」
「……なんとなく?」
「ふはっ、意味分かんねぇ」
オレだって金ねえし、と大輝が笑った。つられてオレも笑う。ダメだなオレたち。ああダメだ。帰ろうか。そうだな。よかったね入る前に気付いてる。ああマジで恥かくところだったぜ。
「んーじゃあストバス行くか名前」
「結局バスケじゃん!」
さっきまでのシリアスな雰囲気返せよなぁまったく。二人仲良くUターンしながら大輝の肩をこづいた。そしたら叩き返された。
「うわいってえ」
「軟弱」
大輝が笑う。楽しそうだ。
しばらくはこうやって、2人でサボるのもいいかもしれない。
導く光の孤独を知った
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