10万打企画 | ナノ
照準は君に合わせた


今日の練習は終わり。と武内監督のため息混じりの声が体育館中に響き渡り、ピタリとその外の音も止んだ。あのビールっ腹、無精髭も剃らずにヨレヨレのシャツ着ていつもだらしない。なのに、選手達の信頼が厚いのは、昔は日本の国旗を背負った一流のバスケットボールプレイヤーだった所以だろうか。
おっと、あんな暑苦しいオヤジなんて見てないでみんなのシャツを畳んでしまわなければ…

「名字っち〜」
「げふぅ」

ベンチの、オレの隣にドンと座った黄瀬は力無く倒れこんできた。危うく畳んだシャツの山を崩しそうになるのを慌てて押さえる。部活中だからひっつくなとあれ程言ってるのになんで学習しないんだこの男は。


「ったく、仕事の邪魔だから離れろ黄瀬ぇ」
「ああ名字っちヒドイ。オレ頑張ったんスよ?ちょっとくらい〜」
「まったく……」


そりゃあね、練習試合といえ今まで負けなしでやってきた奴が創立2年の駆け出しバスケ部にポロっと負けちゃえばその後の練習は真面目にするようにはなるよ。うん。それはいい傾向だよ。でもさ、それとコレは違うと思うんだ。コイツはオレの1つ下の後輩で、マネジャーだけどオレはコイツの先輩。やっぱり先輩は敬うべきなんじゃないかな。

ああホント、黄瀬と密着している右側が暑苦しい。


「名前もお疲れさん」
「どうも。あ、笠松先輩タオルどうぞー」
「おうサンキュー」


汗だくになって簡易ベンチへ帰ってきた笠松先輩にタオルを渡す。
オレは?ねえオレのタオルは。とうるさい黄瀬にはテキトーに投げてやった。


「悪いな名前」
「気にしないでくださいよ先輩」


寧ろ、こうやって使ってくれて嬉しいと思ってる。去年のウィンターカップで膝を故障してもうコートに立つことがないオレを、マネージャーとして働かないかと声を掛けてくれたことが。男がマネージャーだなんて、他人から見たらちょっと胸を張れないコトかもしれないがオレはこれで満足してる。


「確かに、今年の春に女子マネは取らないと言ってた時は何事かと思いましたけどね」


それだって、黄瀬に釣られてマネジャーになろうなんて人がが学年問わず急増したのが理由でもあるし。森山先輩は泣いて喜んでらしいけど流石に「黄瀬目当てです」なんて中途半端な奴はバスケ部としては願い下げだろう。


「オレも、名字っちがマネージャーしてくれて嬉しいんスよー」
「あーはいはい…」


正直、子犬のように擦り寄ってくる黄瀬は暑苦しくて仕方がないのだがこれも、いつも頑張って練習に励んでるご褒美だと思えば耐えられなくもない。


「あ、名字っち信じてないっスね。オレ本気っスよ?本気で名字っちのこと大好きですから」
「ちょっ…黄瀬……」


男から大好きとか真顔で言われても嬉しくないんだけど。でも嫌な気分にはならなかった。
そうかコレがモデルの力か、と自己解決してとおくことにしよう。


「おアツいなぁ、おまえら…」


笠松先輩が困った顔して肩をすぼめた。




照準は君に合わせた
(小堀、今日も平和だな)
(そうだな森山)
((……出番が欲しかったな))

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