10万打企画 | ナノ
世界から色が消えた日




なんだか居心地が悪くなってバスケ部を辞めて数日がたつ。二軍になって活動体育館が変わった後も大輝や真太郎とはちょこちょこ交流も続けていたが、部活を辞めたらそれもめっきり無くなった。
バスケから離れて後悔はない。けど淋しくないといえば嘘になる。だがあの場所に戻る気はさらさら無かった。


そんな、やる事もなくだらだら過ごしていたある日のこと、オレは学校帰りにコンビニに寄ってアイスを買った。別になんてことない最近の日課だ。そしてオレが咥えてるのはだだのワンコインアイス。日本の店なら何処にでも置いてある超庶民の味方、その名もゴリゴリ君。
1人で帰る時、アイスを買うならこれだと決めている。いつだったか、ちょっと奮発してハーゲンダッツのスティックタイプを食って帰ったら見事にチンピラからカツアゲにあったから。だからこんなメジャーアイスでトラブルに巻き込まれるはずないって思ってたのに……



「あれー名字ちん、美味しそうなの食べてるね?」

「なんだ敦かよ……何かようか?」


背後から声をかけられ、振り向けばやはり大きな子供がオレの数歩後ろに立っていた。「部活は?」と聞きたくなったが、未だに部活のことを気にしてると悟られたく無かったのですんでの処で言葉を飲み込んだ。


「いいねぇ、そのアイス。オレにも頂戴?」

「ん?ならそこのコンビニで買ってくれば……ぐっ!?」


敦と向かい合って話していたら、突然後ろからハンカチか何か布のようなもので口を押さえつけられた。抵抗しようと藻掻こうとしたが敦の長く大きな手によって、オレの両手は拘束されてしまった。
ポトリ。食べかけのゴリゴリ君が、熱を持ったコンクリートに落ちた。ああオレのレモンスカッシュ味のゴリゴリ君が……
結局、落ちたアイスを拾うことは叶わず、オレの意識はここでトんだ。



 ***



「う………ん、」


オレが目を覚ましたのは外ではなく室内だった。真っ暗で光一つ入らない場所だったが、自分が寝転がされてるのはベッドのような所だと手探りで分かった。
気を失ってからどれ程時間が経ったのか、数分数時間…あるいは数日か、そして今は何時なのか全く見当はつかなかったがいい状況に居ないということは感じた。


「やあ、おはよう。やっと起きたかい名前」

「んっ」


闇の中から聞き慣れた声がしたかと思えば、パチンとスイッチが押されて部屋の電気がついた。暫く浴びていなかった光に慣れるまで目をそばめた。


「んー……」


目が光に慣れた頃、目を開ければドア付近に征十郎と敦が居るのが分かった。手を部屋のスイッチに乗せたまま、オレを見てうっすら笑っている。その隣にはポテチを摘む敦がいた。


「なんだ征十郎、お前何し……?」


寝かされていたベッドから起き上がると、ジャラリ、と金属が擦れる音がした。そして首には硬くて冷たいモノ


「鎖?なんで」

「お気に召したかい名前?」

「……お前がやったのか征十郎」

「そうだ」


君を捕まえるためにね、と笑う征十郎はベッドに腰掛けオレの首に繋がる鎖を手にした。
ジャラリ、音がなった。


「敦が協力してくれたおかげで君を運ぶのにそう苦労はなかった」

「なぜ、こんなことをする?」

「何故って…やっと君が独りになったんだ。手に入れるのは当たり前だろう?」

「オレが部活を辞めるに至ったのは、ぜんぶお前が謀ったからか」

「そうだよ。大輝やテツヤと仲良くなっていくのが忌々しくて我慢ならなかった」

「……狂ってる」

「何とでも言ってなよ」


どうせ君は逃げられない、と征十郎は鎖を引き、寄せて耳元で囁いた。その声色には今までの優しい征十郎は居なかった。


「言っとくけど、そこに立ってる敦に助けを求めてもそれこそ無駄だから」

「やってみなきゃ分から」
「いや無意味極まりないよ。彼には飽きるほどのお菓子と、君に触れる権利をあげたらあっさりとこちら側についてくれた」

「なっ!!?」


慌てて敦の顔色をうかがったが、相変わらずポテチを噛るばかりだった。まるで死にかけの魚が獲物を狙うような、欲にまみれた目。
つまりは、そういうこと。


「ね?今自分の置かれてる状況が分かっただろう名前」

「くっ……」


無性に目の前のオッドアイを右手で殴り飛ばしてやりたくなった。
ギリ、と手に力を込めるとそれを察した征十郎がオレから離れた。追いかけようにも、鎖が案外短くてオレはベッドから降りられない。


「じゃあ僕たちコレから学校だから」


大人しくいい子にしててねと笑った征十郎は、部屋のスイッチをオフにした。

バタン。重たい扉は閉められ、さらには鍵をかけた音まで聞こえた。窓のない部屋は恐ろしいほど真っ暗。しかし真の恐怖は、赤司征十郎が帰った時────……‥




世界から色が消えた日
(君達の心はいつから狂った?)

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これはあくまでも【if】です。
「部活を辞めるに至ったのは、ぜんぶお前が謀ったからか〜」というクダリによって夢主の辞めた理由が書いてありますが、本編となるオセロゲームとは直接的な関係はありません。
あくまでも【if】の話です。


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