10万打企画 | ナノ
01

──…70対76、誠凛。
あのレフェリーの言葉が今も頭の奥で繰り返してる。ああ、俺達は負けたんだ。


「みんな、お疲れ」


肩を落として帰ってくる選手ひとりひとりにタオルを渡していく。普通ならここで慰めの言葉などかけてやるべきなのだろうが、此処にいるのは反則を平気で取るほど肝が座ってる奴らばかりだ。下手な言葉を贈って神経逆なでしても仕方ない。


「さあ帰ろう」


一番悔しがってる花宮の隣にさりげなく並んで、静かにコートを後にした。





 ◇ ◇ ◇





「…………」
「…………」


控え室に戻ってからも皆無言だった。あんな負け方をしたんだからそれもそのはずだろう。
花宮に至っては向こうのチームに思い入れがあった分その思いもひとしおの事。
だが、


「わりぃ、俺ちょっと出てくるわ」


人生最大の落ち込み具合を見せる花宮のメンタルよりも、気になるものがあった。俺は畳み掛けのTシャツをかごに放り投げドアの方へ向かった。


「あ、おい…」


瀬戸の制止の声を背中に受けたが無視して控え室を出た。


「……さて、」


霧崎の控え室の3つ隣、誠凛控え室へ足を運ぶ。
アイツは今どうしているだろうか。試合の後半、左膝をずいぶん気にしていたようだったがやはり完治どころか悪化してるのではないか。

コンコン、と軽くノックをして中からの返答を待たずにドアノブを引いた。


「お邪魔しまーす…」


わりと堂々と部屋の中に入る。騒いでいたのが一斉に静まった。


「あなたっ…!?」


女カントクが声を荒げた。他にも視線はたくさん集まる。
無理もない。俺は霧崎の人間でありここは誠凛控え室。今度は何をする気だと警戒するのはあたりまえ。

でも俺はそんな視線なんぞ気にしない。


「木吉、足は大丈夫なのか?」


ブルーのベンチに腰掛ける木吉の足下にしゃがみ、その落ち着いた顔を見上げた。


「名前…」


表情こそ変わらなかったが、木吉は突然の俺の登場に驚いているようだった。声が僅かに震えてる。


「最後に木吉と会ったのはお見舞いに行った時だったかな」
「ああ」
「足は、相変わらずのようだね」
「……ああ」


膝に巻かれたテーピングを指でなぞると、膝はピクリと反応した。


「どれ。俺が巻き直してやるよ」


テーピング歴なら俺のほうが長い。同じ壊され方をしたならソレに有効な巻き方を俺は知ってるからな。
背後で女カントクの慌てた声がしたが無視でいいだろう。


「ここはねーこうしてだなー…」


太さの違うテープを幾つか使って巻いていく。最初は口うるさかった女カントクも、俺の手元を見て次第に静かになった。
すると廊下からコツコツと足音が。
それはだんだんと大きくはっきり聞こえるようになり、音が最大になったあたりでピタリと止んだ。


誰の足音か、なんて確認しなくとも俺にはわかる。



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