いつまでも、共に
それはある日の部活中、妥当海上を目標に誰もが練習に勤しんでる時のことだった。
むさ苦しい体育館で猛練習している部員には目もくれず、たった一人のマネージャーである桃井さつきは人目のつきにくい体育館裏周辺をうろうろしていた。
「何やってんだあんな所で…」
水分補給のために外に設置されている水道に来たオレはたまたまその光景を見た。
マネージャーの不審に行動につい思ったことを呟いたのだが、口に出してみて分かった。
あれは青峰を探してるんだと。
「また青峰か」
通常のマネ業の他に対戦相手の情報収集とかもしてる桃井はただでさえ忙しいんだから、あんま手間取らせんなよとあのぐーたらガングロに一発言ってやりたい。
実際、アイツ目の前にしたら何も言えないんだけど。
「つーか桃井の奴あんな所でうろちょろしてっと変なヤツに絡まれ………あ、」
ほら、言ったそばからコレだ。
右も左もいかにも不良ですって雰囲気の男共に囲まれて、校舎裏の日陰に連れて行かれてしまった。
桃井が抵抗しなかったのを見るに、青峰の居場所を知ってるとでも言われたんだろう。
「しかたねーな」
うちの唯一のマネージャーに何かあっては大事だ。
オレは桃井が連れていかれた方へと足を向けた。
「ね、あんた桃井さつきだろ」
「写真よりずっとエロいね」
「オレらとちょっと遊ばない?」
「………」
厄介なのに捕まった。
青峰君を探していただけなのにこんな面倒な男共に捕まってしまうなんて。
「ねえ、聞いてる?」
「ひっ──」
知らず知らず壁に追いやられ、こいつらのリーダーらしき男の手が私の顎を撫でて髪を一房すくった。今までにないくらいの鳥肌が全身に立つ。
ヤバイ…
普段から鈍感だのノロマだの鈍い奴だなんて他方から言われて来たけど、これは絶体絶命の状況に陥ってる事ぐらいすぐ判断できた。
「っ、あ…いや……」
恐怖のあまり上手く声が出ない。ただ叫べばいいのに、力の限り叫べばいいのに。いつもどうやって喋ってたっけ?呼吸ってでうやってたっけ…
「あんたら、何してんの?」
「!?」
「誰だテメェ!」
もうダメだ。助からないと思って目と唇を力一杯閉じたまさにその時だった。
「っ名前君!」
救世主が現れた。
「女子囲って何やってんのあんたら」
「へっ、テメェにはやらねぇよ。オレ達が捕まえた女だ」
「へー」
それはどうでもいいやと言う名前君。助けに来てくれたのだろうけど、手をポケットに突っ込んで気だるそうにしてる。ホントに助けに来てくれたのよね…
「つーかあんた、いい加減さつきから離れてくんない?」
「テメェの女じゃねえだろ。オレの勝手だ」
そう言って男はさらに距離を縮めてきた。
「あーそんなことしていいのかな」
「はあ?」
「それ以上近づいたら、チクっちゃうよ三組のさえちゃんに、アンタの彼氏他の女とヤってたよって。それとも一組のミホちゃんに言ったほうがいいかな?」
「なっ!?」
男は名前君の言葉に驚いて、一瞬だけ私にかけていた圧力が緩む。
名前君はその一瞬を逃さなかった。
「今だ行くよ桃井!」
名前君は持ち前の速いスタートダッシュと冷静な判断で私の手を握ると、このじめじめした校舎裏から連れ出してくれた。
「はっ、名前く…ありがと……」
「ん…ああ」
暫く走って、人の往来がある玄関先まで来た。ここまで来ればもう安心だろう。私たちはやっと足を止めることができた。
「ここまでくればもう大丈夫かな…桃井も平気か?」
「え?…だ、大丈夫。何もされなかったわ」
「それはよかった」
「………」
名前君の顔がやっとほころんだ。助けに来てくれた時はいつも見たいな気の抜けた表情をしてたのに…どうやらあれは緊張してたのだ。その証拠に手汗が。
「………」
そういえばあの不良たちから逃げるのに一生懸命で、手を繋いでるのなんて今気付いた。
どうしよう。一回気付いちゃうと意識しちゃう
「手、まだ繋いでいい?」
私の視線に気付いた名前君はおずおずと聞いてきた。もしかしたら迷惑ではないか、と。
「ほら、桃井ってああいう輩に狙われやすいからさ、虫除けに…」
遠慮がちに言う名前君の頬は真っ赤で、繋がってる手からはドクンと鼓動が聞こえそうだった。
いつまでも、共に
(やべ、これチャンスじゃね?)
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