10万打企画 | ナノ
思い込みから始まる恋物語

雨が降っている。

部活を終え、さあ帰るぞという時に限ってコレだ。置き傘はない。走って帰れる雨量でもない。

「どうすっかな…」

オレは途方にくれた。




「何やってんのー順平」
「名前」

静かに降り続く雨の中、水玉の折り畳み傘を差して陽気に歩く女子を見つけた。俺ん家の隣に住む、しょせん幼なじみという奴。


「お前こそこんな遅くまで何やってたんだ帰宅部のクセに」
「図書館でお勉強ですよー」
「うわありえねぇ」
「失礼な」


名前は頬を膨らまして拗ねた。もう高校生なんだからそのガキみたいな拗ね方は止めろと言ってるのになかなか治らない。わざとなのかクセなのか。


「順平こそ何やってんの?はやく帰ろうよ」
「帰りたいが傘を忘れた」


両手を上げて、もうどうしようもないことを示す。すると鼻で笑われた


「まったくー。いくつになっても世話の焼ける順平の為に傘を半分こして上げる」


これで貸し一つねと名前は傘を少しだけこっちに向けた。此処に入れと言うことか。


「仕方ねーからオマエに貸し一つ作らせてやるか」
「あ、なにその言い方」
「うるさいうるさい」


また頬を膨らませる名前を横目に、オレは傘の中に入った。体はなんとか防げてるがカバンはどうしようもないな。

ナイロン製のスポーツバックにかかる水滴を時々払い落としながら、名前の傘を半分かりて帰路に着いた。


「…ちょっと、」
「んー?」
「だんだんオレのスペースが無くなってくんだけど」
「あはは気のせい気のせい」


名前は笑って誤魔化しながらそっと傘をオレらの間に戻した。


「傘の骨が頭にあたって痛い」
「男なんだから我慢しろよー」


めんどくさいなあと言いながらも傘の位置を高くしてくれた。でも腕が疲れるのか、直ぐに骨組みはオレの頭を突く。


「あーもういいよ。オレが傘持つ」
「はいよろしく」


名前は素直に傘の柄を差し出してくれた。


「なんかいいねー」
「なにが」
「2人で傘っていうのも」
「え?」


相合傘みたいでさ。と名前は肩を寄せてきた。お互いの体温が直に伝わってくる。気温が低いから余計に感じる。


「順平温かいし」
「汗臭くないか?」
「正直言うとちょっと汗臭い」
「……すまん」


以前、それで大喧嘩したのを思い出す。少しだけ名前の肩から自分を離した。


「あ、濡れるからもっと寄ってよ」
「汗臭い言うから気ィ使ってやったんだよ」
「濡れるのもやだ」


また名前は擦り寄ってきた。


「わがままだな…ったく、」


こんな奴がよく友達作れたよなと聞こえるように毒を吐いた。


「順平だけだよ。わがまま言うの」
「へ?」
「友達にも先生にもわがままなんて言わないもん私」
「そう、なのか」


わずかに名前の表情が暗くなったように見える。俯いたから、そう見えるだけだろうか。


「だって嫌われたくないもん」
「ちょっと待てオレには嫌われてもいいのか」


一瞬見せた暗い顔がすぐ元通りになった。今のはやはり気のせいか。


「そうじゃないよ順平」
「あ?」

「わがまま言っても順平は私のこと嫌いにならないでしょ」


いつもみたいな悪戯な笑みなんかじゃない、おとなしい笑い方向けられた。

あれ、こいつこんなに可愛かったか?

一度意識してしまえば誤魔化すことはできなかった。


「どうしたの順平顔真っ赤」


雨にうたれて風邪引いた?なんて聞きながら上目遣いで覗き込んでくる。

いや、上目遣いになるのは身長差のせいだからいつもだろう。だから特別な意識もいらないはずなのに…


「あっ、えっと、」


なぜだろう。
名前のことを真っ直ぐ見返せなかった。




思い込みから始まる
恋物語


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