10万打企画 | ナノ
03



「そっち入れてー」
「だからダメだってー!!」
『ばか敦…』


火神の安い挑発に当てられて本来の目的を忘れてしまった敦。オレたちは氷室さんを連れ戻しに来ただけなのに…ああ荒川監督のシワがまた一つ増えるんだろうな。


「………」
『変なこと考えないでくださいよ氷室さん』


すぐに悪知恵を働かせて面白いことを考えちゃう氷室さんにクギをさす。まあクギをさしてこの先輩が大人しくなった例しなんて無いんだけどもな。


「大丈夫、変なことじゃないよ」


オレに爽やかな笑みを向けた氷室さんは敦と即席チームメイト達の方へ歩いて行った。


「Tシャツ、オレのともう一枚ないかな」
「え?」
「てきとーに口ウラ合わせて………強いし…」
「………」


お得意の饒舌であっという間に皆を言いくるめていく。もうこの人に何を言っても無駄だな。


「名前もやってくかい?」
『いいえ結構です』


敦の言葉を借りるわけじゃないけど、めんどくさいのだ実際。こんなじめじめする日に外で走り回るのはめんどくさくて適わん。


『オレ、その辺ぶらぶらして待ってますから終わったらちゃんと電話くださいね。ち ゃ ん と で す よ 』


さり気なく念を押してから自分のカバンを持って、この場を離れた。オレがいなくともあの2人だけでも余裕にどうにかなりそうだし。


『あ、りんご飴買って帰ろ』


ついでに監督の機嫌取りのためになんかお土産も調達していこう、ここで……



『……え?』



ポツリ、ポツリと冷たい何かが肌に当たった。ああこれは雨なんだとすぐに分かった。


『やっべぇテントテント…』


雨のしのげる場所まで行くが人がごった返していてほとんど防げない。次第に雨は激しいものに変わっていき、とうとう試合も中止になってしまった。
これでようやっと帰れる



「名字ちーん」
「ああこんなところでびしょ濡れに…風邪ひくぞ?」


激しい雨に打たれながら、ソレから逃れるように走る敦と氷室さんが見えた。あなたの方がよっぽどであるというのに人の心配ばかりして。


『オレは平気ですよ。そこで雨宿りしてたんで』
「そうか」


背後にある受付の簡易テントを差した。一緒にあそこへ行こうと提案しようとしたが、生憎もうオレたちが入る隙が無かった。


『まー、仕方ないんで帰りますか』
「えーまだ何も食べてない」
『お好み焼きとりんご飴と…いろいろ買ったから』
「ホントだ、ありがとー」


たくさんの食べ物が入ったビニール袋を軽く掲げると、敦は早速それに手をかけた。


「名前はよかったのか?」
『え?ああ…自分の分と監督へのお土産は別に確保してあるので大丈夫です』
「そうじゃなくて、黒子君だよ。会わなくて良かったのかい?」


旧友だろうと、氷室さんは優しい声で尋ねてくる。今追いかければまだ間に合うとでも言いたいのだろうか。


『いいんですよ。この前こっそり試合を見てきたんです。楽しそうにやっていて安心しましたから』


それだけで十分ですって呟いて氷室さんに笑いかけた。


『さ、帰りましょう』





仲間の為に進むのみ
(いつまでも過去の柵に囚われてちゃいけない。歩きださねば)



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