現実は甘くない
「せーじゅーろーくーん」
「…………」
「おーい」
「…………」
「ねーってばー」
「…………」
「…………」
さっきからこの繰り返し。オレが話し掛けても全部無言で返ってくる。
「征ちゃんってばー」
「…………」
ダメだ。苦手な呼ばれ方で呼んでももう見向きもしてくれなくなった。
「なあなんで不機嫌なの?何がダメなんだよ」
家に勝手に上がったこと?楽しみに残してたショートケーキのイチゴを食べちゃったから?それとも、この前征十郎の靴を間違って履いて帰ったことまだ根に持ってるとか?あ、昨日オマエのベッドで寝たのが不味かったか。まあ、
「そんな事はどうでもいいから速くオレの宿題手伝ってよ」
「その言い方がオレの神経を逆撫でしてるって分かんないかな名前」
「あ、そうなの?だったらちょっと待って。言い直すから」
んっ、ん、と喉の調子を確認して姿勢を正す。そしてテーブルに肩肘をついてる征十郎の前にきちんと正座した。
「お願いします征十郎様。どうか私めの終わらない課題の為にあなた様のお力をお貸しいただけないでしょうか」
パンッ。と拝むように両手を合わせて今オレができる最高の敬意を現してみた。
「どうでしょうかっ」
「断る」
「ありがとう征十郎!君なら絶対断ってくれると……って、ええええ断るですと!?」
思わずノリツッコミしちゃっじゃねえかちくしょー
「当たり前だろ。オレが名前の課題をやって何の得がある?」
「そりゃー………ねぇけど、」
昔のよしみでさ、手伝ってくれたりするんじゃないのこーいう時って。
「自分でやれ。そのために夏休み前にまとめて三日も休みを取ってもらったんだぞ」
「わかってるってー。そーいう征十郎の気配りは分かってるけどさ、」
思わぬ予定が入ったんだよ昨日と一昨日は。
「ああ、大輝の宿題を皆でやったらしいね」
「うんそう」
「さつきも居たんだろ?」
あまり面識がなかったようだが大丈夫だったかと聞かれる。
「別に…全くの初対面ってワケでもなかったし、それなりには仲良くなったよ」
「それはよかったな」
本当はその人見知りが治るといいんだがな。と征十郎はため息をついた。
「あ、話そらすなよ征十郎。オレの宿題を手伝ってくれ」
「だから断る」
「ケチ」
「当然の対処だ」
「う〜…何でもするからさー」
すると、待ってましたとばかりに征十郎はにやりと笑った。
オレ、なんか不味った?
「今、なんでもと言ったか?」
「う゛」
「言ったよね?」
「………はい」
言うんじゃなかったと後悔しても今更だ。コイツの前では撤回なんてできやしない。
「なんでもやってくれるなら、いいよ。何をして欲しい?」
オレの一言でやる気を出した征十郎。ホント現金な奴と言うかケチというか…
「さあ言ってごらん」
「………」
ああやっぱり頼むんじゃなかった
現実は甘くない
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