あの記憶が何度もループする
無冠の5将、悪童、天才、秀才、反則王、霧崎のキャプテン、…いろいろな肩書きで言われてきた先輩だけれども、オレから見たらどれも堅苦しくて先輩にはあわない
『真先輩』
試合が終わり控え室に戻ってきてから先輩の名を呼んだ。どこからか「ほっとけ」という声が聞こえた。
確かにそのほうがいいのかもしれない。だって今日の負けた相手があの無冠の5将の鉄心、木吉鉄平なのだから。
『先輩…』
それでもオレは、まだ一言も喋らない先輩の背中に声をかけた。あんな小さな背中を見せつけられては放っておくなんてできない。ちょっとでも目を離したらふらっとどこかえ消えてしまいそうだし。
「じゃあ先に行ってるから」
「点検戸締りよろしく」
「あんまり遅くなんなよ」
着替えが終わって帰りの支度を済ませた先輩方はひとりふたりと控え室を出ていく。
落とし物やゴミの確認を終わった頃には、残ってるのはオレと真先輩だけになっていた。
『そろそろオレたちも行きましょう』
今度は後ろからではなく前から真先輩に言った。相変わらずうなだれたままの頭に向かって。
『……先輩?』
聞いてるのか聞いてないのか。
顔を見せてくれない先輩は反応がいまいち不明瞭で心配になった
『真先輩』
さっきより少し大きな声を出した。すると先輩はエナメル製のスポーツバックも持たないままゆらゆらと前進。
このままではオレにぶつかってしまう。避けるべきか受けとめるべきか。
思案していると、先輩はオレの肩に頭を置いてきた。
「暫くこうしてろ」
かすれた弱々しい声で先輩はそれだけいって、体重も少し預けてくる。
あと聞こえてくるのは不規則な先輩の息遣い
『先輩がお望みとあらばいつまでも』
オレは、幼い子供をあやすように背中をトントンと数回叩いてやった。
"弱虫"な先輩…大丈夫、あなたはこれから強くなれる。
あの記憶が
何度もループする
("またやろうな"の、あの笑顔)
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