傷つく心
今日は決勝リーグ一日目、テツヤがいる誠凜高校との対決の日だ。
きっと大輝はいつも以上に暗い顔して帰ってくるに違いない。
そんな時、奴を慰めてやるのがオレの務め
「ただいま…」
『おかえり、大輝』
「ああ」
リビングでの会話はそれだけ。
彼はさっさとオレが掃除しておいた自室に行ってしまう。
『お疲れ様』
「ああ」
元気がまったく無い大輝は背中をベッドに預けて座る。
その発する雰囲気が、なんだかいつもと違う
「今日、テツヤとやった」
『!……そうか』
コイツが試合の話をするなんて珍しい。何かあったのだろうか
『新しい光がいたんだろ?』
「いた。でもまだダメだ。あんなんじゃテツヤの力は発揮されない」
『"まだ"…ね、』
今日の試合も大輝は勝ってきた。
でも今回の試合で他とは違うところといったら、昔の相棒が敵側にいたことだ。
大輝は彼が強いってことをキセキの世代の誰よりも知ってる。
その事実を思うたびに、胸にモヤモヤしたものができるけど。
「テツヤなら、オレの願い叶えてくれると思ったんだ」
本気で闘って負けたい。
オレには叶えてやれない願いだ。いくらオレが大輝と並ぶくらい強いと言われても、生憎自分には闘争心の類が欠如している。
勝ちにこだわらないオレでは、大輝の相手は勤まらない。
「期待したオレがばかだった」
足を抱えて、膝の中に頭を埋めて小さくなる、大輝の声は今にも泣き出しそう
『だい……』
こんな弱々しい大輝を救ってやれない自分がもどかしい
『………』
なんて声をかけてやればいいか分からない自分に腹が立つ。
『だい、オレはどうしたらいい?』
路頭に迷う自分に耐えきれなくて、大輝に聞いてしまった。
「隣に……」
『え?』
「隣にいてくれるだけでいい」
『そうか』
それでお前の心の傷が治るのなら、いつまでも一緒にいてやる
傷つく心
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