狂詩曲 | ナノ
離れてく距離





「わたし、やっぱりテツくんの彼女になるよ!」

『ああそう』


さつきの両親は結婚記念の旅行でいないからと、今日は夕飯を作りにこの家に来ている。
おじさんとおばさんが、料理の腕が壊滅的なさつきのためにとオレに頼んでいたのだ。


『(なに作ろう…)』


テーブルでコーヒー飲みながら料理雑誌を見てるが、なかなか決まらない。


「ちょっとおめでとうとかなんか無いの瑞樹君!」

『ついこの前オレをフった奴の新しい恋を応援しろってか』

「はうっ…それは……」


ついさっきまでの威勢がすっかり消えて黙ってしまうさつき。
だいたい、テツヤの彼女とか前々から言ってんじゃね


『いや、オレも別にいいけどさ…テツヤをあんま困らせんなよ』

「大丈夫だもん!ちゃんとテツくんにエスケープしてもらうんだから」

『それを言うならエスコート。大丈夫かぁ?ほんとに』


逃げられてどうすんだよ。

そもそもさつきは優柔不断過ぎるし興奮すると周りが見れなくなって空回りばっかりする。


「あたし、瑞樹君が思ってるほど子供じゃないし」

『…スカートの下にくまちゃん』

「はっ、何で知ってるの!?」

『今朝起こしに来たとき見た』


正確に言うなら見えた。


「くまちゃんは関係ないし瑞樹君のことはもともと好きとかそーいうんじゃなかったしっ!」

『まあそうだけど』


さつきがオレに付き合ってって言ったのは、単にオレと大輝が仲良くしてるのに嫉妬したからだ。
自分だけ仲間に入れてもらえなくて寂しかったのだ。

大輝に対して、オレに対して、同じ思いをして欲しかったから


『オマエ、またオレらからあぶれるかもよ』

「脅しは止めて。どうせそんなことしないでしょ」

『ばれたか』


この様子だと何を言っても聞かないだろう。


『ま、いいんじゃねぇの。お前の好きにすりゃ』

「ほんと?やったぁ!」


やったぁも何も、彼氏作るのに別の男の許可が欲しいのか?
オレには分からないけど、きっとさつきには大事なコトなんだろう。


『辛くなったらすぐ戻ってこいよ』

「うん!ありがとう、瑞樹君」


テツくんテツくんとはしゃぐさつきを見て、オレの胸は虚無感でいっぱいだった。


『(ああ。こいつらが感じてた嫉妬って、こーいう事か)』


少しでも自分から離れると、どうしようもない寂しさを感じる




離れてく距離

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