オセロゲーム Part3 | ナノ
どうなるんスかね (1/4)




チクタク、音は鳴らないが確かに動いているタイマー。狂うことなく時を刻み、"終わり"へと冷徹に二人を誘(いざな)っていた。彼に与えられたチャンスはあと何回か。

黄瀬と別れたのち足速で客席に向かっていると、静かな闘志を燃やしぶつける彼らとは対照的に力の限り叫びエールを向ける観客の声がワッ、と響いくのが壁を伝って聞こえた。客席スペースに入るとそれが直に肌に感じる。いったい、この声援のいくらが彼らの静かな闘いを見ているだろうか。オレやテツヤのように二人の変化を感じてる人はどのくらいだろうか。


「みーんな、節穴だよ」


それぞれの胸のうちから見え隠れする思いを掻き消すような無神経でただデカいだけの声援に思わずイラッとする。自分の場所へ戻るために申し訳程度に腰を屈めて人々の前を通るたび、心の中で問うのだ。
お前らはいったい、何を見て興奮してるのかと。

オレはあの二人のマッチアップ見てると、もう胸が締め付けられそうだ。全力で戦って負けたい青と、全力で挑んで勝ちたい黄色。二人の抱えてるもんを知ってるからこそ、声張って応援なんて余計にできない。だって野暮だろそんなこと。




「いよいよ後半戦だ!」

コートの中では桐皇の桜井が笠松さんにボールを奪われた時、オレはやっと席に座ることができた。


「おせーよ藤井」

『いやスマン』


こっそり座って何事もなく観戦しようかと思ったが失敗した。
どこ行ってたんだ?黒子見つかったぞ。と、河原達からも言われる。火神は口を尖らせたながら不機嫌にオレを睨んだ。もしかしたらジュースを預けて、一人だけでテツヤを探しにいったことが不味かったのかもしれない。結局、テツヤを見つけらんなかったし。


『もういいだろ戻って来たんだから』


あちこちから責め立てられるのがいやで、耳を塞ぐ素振りで会話を切った。
コートでは黄瀬がボールもらって今吉の前へ行く。


「うおっっ、いきなり速攻!!」


今吉の目の前まできた黄瀬は、スピードを緩め、右に視線を投げながら左にボールを飛ばす。
これはチャンス。とでも思ったのだろう。今吉は直ぐボールに手を出した。
どこか虚ろな雰囲気だった黄瀬は、急にスピードを上げてボールを掴み今吉を抜く。


「ファウルホールディング、黒4番!!」


慌てた今吉がつまらないミスをした。桐皇の知将にしては珍しい事ではないか。つまり、そうしないと黄瀬を止められなかったということ。


『だんだんイメージは掴めて来たようだな』


遠目では選手達の表情ははっきり見えないが、おそらく黄瀬の成長スピードに驚いているだろう。特にさつきが。


『さつき、かあ……』


馴れ馴れしく下の名前で呼ぶが、ぶっちゃけて言うと仲はそれほど深くない。オレが一軍にいた時はさつきは二軍マネージャーだったし、オレが降格した時は彼女はすでに一軍専属だった。だから、オレが大輝と1on1しにこっそり行ったときに会話をする程度だ。友達の友達は友達、みたいな。
あと彼女は、お得意の情報収集能力によってオレのことよく知ってるし。

……ああ、今はコレ関係ないか。

よけいなコトまで考えてた。と頭を振って脱線していった部分を戻した。



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