憧れは悪いことじゃない (1/3)
「……一ついいか。オマエらどーやって海常に勝ったの?」
第1Qを真面目な顔してコートを眺めていた鉄平さんが、思ったことを口にした。
「う゛っ…」
「うーん…」
『気合い、とかじゃないっすか?』
オレはそんなに頑張ってなかったが…
しかし桐皇と互角にやり合うあの海常にどうしてオレたちは勝てたのか、今思えば不思議だ。
「あと、青峰君が本気とは言いましたが、彼は尻上がりに調子を上げていく傾向があります。そして上げるとしたらそろそろ……きます」
ですよね、直也君。とテツヤが後ろを向いてオレに確認を取る。お前の方がよく分かってるだろうに…とは口に出さずに「そうだな」とだけ返した。
「第2Q始めます」
桐皇ボールから始まった。まず今吉自身がシュートしようと中に攻めるがそれはフェイク。若松にボールを回し、シュートが決まった。
「来たあ!第2Q、まずは桐皇!!」
桐皇の先制点に、会場はいっそう騒がしくなる。特に桐皇のベンチ後方側に陣取ってるバスケ部達が。あそこにいる人たちは推薦で来た人、自らの意志で入部した人、それぞれだろうが三年間あそこにいた選手も少なくないはずだ。
なんていうか…そういうの考えるとちょっと同情心が。
『あ、降旗君…』
「なに?」
隣の席で、ただただこの歓声に驚いてばかりの降旗君に声をかけた。
別に大したことを言うわけではないが、海常と桐皇のPGは高校バスケの中でも指折りの実力者だ。
『君にとっていい教科書になると思うんだ。あの2人、』
「教科書て…今吉さんと笠松さん?」
『そう』
オレにとっても勿論いい勉強材料だけど、降旗にとっては尚更だろう。
……あ、海常の8番がファール食らったてしかも大輝はバスカン貰ってる。
「でもオレ、あんな腹黒にはなりたくないなぁ…」
なるなら笠松さん……とお腹を抱えて渋い顔をする降旗。すると河原や福田の笑い声がした。
「バッカ、降旗はあんなんなれっかよ」
「だよなー、お前が人を欺くとか…想像できん!」
「むしろ騙される側だよな」
「あー確かに」
「なっなんだよお前ら!」
けらけらと笑ってからかう福田と河原。そんな二人に降旗は顔を真っ赤にしていた。
おまえら見てると…なんか楽しいな
「ちょっとソコの一年ー」
『!』
笑い合ったりちょっかい出したりしてたら、前の席からカントクの声が聞こえた。
半目になってこちらを見つめている。それと目が合ったら、なぜか寒気が走った。
「ずいぶん楽しそうね」
ええまあ。と返事をぼかすと、試合もちゃんと見なさいと軽く叱られた。後ろで騒がれると気が散るらしい。
「今いいところなんだから……ああ、もう見逃しちゃったじゃない」
『えっと…』
なんかスミマセン。と四人で謝った。カントクが試合から目を離してる間にコートでは大きな進展があったらしい。だって観客が騒いでる。
オレ達も一旦会話を止めてコートを見た。
「海常高校タイムアウト」
この短時間でけっこう疲弊してる選手がそれぞれのベンチへ戻っていった。電光板には、18対18と映ってる。
『あーらら』
ヤバいんじゃないの黄瀬君。
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