自分にできる事を (1/4)
──ぴぴぴP
バンッ!目覚まし時計の3コール目の電子音でようやく起きた。他の皆が起きださないように音を小さめで設定してた。
現在時刻六時半。
『朝メシ行かないと』
食べに、ではなく作りに。
なんとしてもカントクが来る前に行って炊事場の主導権を手に入れなければならない。
……皆寝相ひでぇ
半袖短パンをさっと着替えて、あっちこっちに転がった頭を静かにくぐり抜けながら戦場に向かった。
『……よし。誰もいないな』
カントクが来ない口にメニューを決めてある程度下ごしらえを済ましてしまえばいい。
オレは冷蔵庫を覗いた
『肉類はあるけど野菜がねーな』
そういえば、野菜は自家栽培してるから必要になったら畑から採ってこいみたいなコトを民宿の人が言ってた気がする。
しゃーねぇ。行ってくるか
面倒だけど新鮮な野菜が頂けるならそれも良いだろう。
ざるを持って、炊事場にある勝手口のノブに手を掛けた。………だが、
『おろ?』
オレがノブを回すより先にドアが開いた。
「あら藤井君おはよう。なに、朝ご飯作るの手伝いに来てくれたの?ありがとう!」
バンダナをしたカントクは笑った。その笑顔が眩しい…というか心に刺さる。明日はもっと早起きします。
『カントクだけじゃあの人数は賄いきれないと思いましてね。オレも多少ならできるのでお手伝いに』
何かやることありますか?と聞きながらさり気なく、カントクより先に包丁を握った。
とりあえずこれを持っていればニンジンまるごととか豆腐一丁が一人ぶんとか、そんな悲惨な状況にはならないだろうから。
「そうね…じゃあキャベツを千切りにしてちょうだい!私はポテトサラダとかお味噌汁とか作るから」
『…………』
一瞬思考がフリーズする。
カレーを作る手順は間違ってなかったカントクの料理の失敗の元は"無駄に調味料を入れたがる"ことである。
プロテイン然(しか)り、サプリメント然り。
それを考えるとポテトサラダやお味噌汁は"調味料"を入れる絶好の機会ではないか。
『カントクあの…』
「なに?」
『オレ千切り苦手なんで変わってもらえませんか』
焦り始めるオレはなるべく平静を保ち、カントクに包丁を握らせた。
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