オセロゲーム Part3 | ナノ
どうなるんスかね (4/4)




向き合う大輝と黄瀬を見てると背中に寒気が走った。ごくん、と唾を飲んで渇いた喉をどうにか潤わせようとする。せっかく買ってきてペットボトルにはまだ一口も口を付けていない。キャップを開ける手間さえ時間の無駄のように感じたからだ。

一言で表すなら、それは畏れだった。


『……すげえ』


途中入部にも関わらず異例のスピード出世を果たした黄瀬の実力はやはり本物だった。だってあの大輝を抜いたのだ。


「なっ……」

「ついに黄瀬が青峰を」

「抜いたあ!!!」


わあっ、と会場全体が黄瀬の動きに歓声が沸き起こる。さあどうする大輝。もちろん止めることは可能だろう。しょせん"だまし"なのだ。スタイルのコピーはできても身体能力の模倣は無理。
たぶん大輝のことだから、ファールしてでも防ぐだろう。


『……ファール?』


なんか、今日はやけにホイッスルの音を聞いてる気がする。さっきは若松さんがオフェンスファール貰って、その前は大輝。それのさらに前は腹黒眼鏡がファールで黄瀬を止め…笠松さんが度胸一発で当りにいってた。たしか最初も大輝。
あれ?オレの記憶だと大輝ばっかりファールしてんだけど。


『カントク、今、大輝ってファール何個目?』

「ファール?ええっと、」


いち、に…とカントクは指を折っていく。親指、人差し指、そして中指を折り曲げたところで、カントクは気づいたようだ。


「まさか…」


ピ───!!と、主審がホイッスルを吹いた。もちろん、大輝に向かってだ。
黄瀬は、ボールを持つ右手を後ろへ回し、ソレを投げた。若松さんにファール取られた時はできなかったやつ。なのにこの短期間でできるようになるなんて、まったく末恐ろしい。


「ディフェンス黒5番、バスケットカウント、ワンスロー!!」


"4"のハタがあげられる。
これは計算されたファウルトラブルだ。あと一回でもファウルを貰ったら大輝は完全退場。そうなればコピーが完成した黄瀬に軍配はあがる。


「4つ目……」

「もう思いきったプレイはできないぞ!!」


たぶんこれは海常の作戦だ。
黄瀬が望んでたことじゃない。それは確かだ。セコい細工をして、満足にプレーもできなくなった相手とやって、楽しいはずがない。ライバルだと認識した相手ならなおさら。


『これで一桁か……』


第3Qはまだ3分以上残ってるし最終クォーターもまるまる残ってる。黄瀬にとっては少々不本意なアクシデントはあるが、とうとう海常にも光が見えてきた。


「青峰もおとなしくなるだろうな」

『…そうだといいな福田』

「え?」


どこかホッとした顔をしてる福田の言葉を聞いて思った。おとなしくなる?あの大輝が?そんなわけない。
たしかに、今、コートの中では大輝がボールを取り損ねた。少なからず動揺はしてるんだろう。でもそれも一瞬だ。「キセキの世代」の最強のスコアラーはそんなんじゃ静かになんてなんねえよ。


『たぶん、大輝のやる気スイッチが完全についたよ』


ほらその証拠に、ダンクをかまそうとしていた黄瀬のボールを大輝は叩き落とした。客席まで飛んでいくほど強く。


『あれはもう止まんないよ』


4ファウルだからって、いっちょ前に気ぃ遣ってっと、あっという間に突き放される。もっと死に物狂いでかかっていかなきゃ。




「第3Q終了です」




感情の読めない機械的なアナウンス。それは黄色と青による最終戦の幕開けの合図のようだった。





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