認めてやるよ、仕方ねぇ (3/3)
『なっ』
「藤井……」
『あっ、いや…うん……』
黄瀬に名前を呼ばれてハッとした。なんかオレ、めっちゃ恥ずかしいこといった気がする。
『あーもー早く行けよ涼太ぁ!』
遅刻するぞオレもう帰るからなと、今のクサイ台詞を誤魔化すように早口で言う。
「え、いま涼太って…オレのこと……」
『うるさいうるさい黄瀬いいから行けよもう!』
涼太って呼んだだけなのに、黄瀬はなんか凄い目を輝かせていた。そんなに嬉しいのか?オレは、言うんじゃなかったと恥ずかしさでいっぱいになった。
「オレ頑張るっスよ藤井っち!」
元気に手を振りながら選手入場口の方へ駆けていく黄瀬。今の話のどこで元気になったかは疑問だが、あれでヤル気が出たならもう何も言うまい。
しっかしこのオレが黄瀬を「涼太」と呼ぶなんてな…。なんの風の吹き回しだろう。
『馴れたのかなぁ黄瀬に…』
そもそもアイツは合ったときから嫌いなタイプだった。陽気に皆の後ろをくっついていくのが、居場所を盗られたみたいで。と、同時にあそこにいた頃の自分を見てるみたいで苛々した。同族嫌悪というか黄瀬を自身と重ねて自己嫌悪してたのかもしれない。
『今頃気づくなんて』
まったくくだらない理由で嫌われてた黄瀬には申し訳ない話だ。つってもお互いが別の理由でいがみ合ってたからおあいこか。
それにしても、オレを二軍に飛ばした征十郎にも迷惑をかけた。キセキの奴らの背中を追っかけるばかりで自分から何かしようとしなかったオレのために、あいつはわざとオレを二軍に飛ばしたんだ。
1人でもやっていけるようにと。
『こんど会ったら謝んないとな』
今、誠凛にいられるのも征十郎のおかげかもしれない。あのまま一軍にいたら、勝つ事が目的のつまんねー試合をだらだらやって、言われるがままに征十郎と京都行ってやっぱりアイツのご機嫌とりしながらなんとなくバスケやってたから。
『よし、帰ろう』
黄瀬もチームに戻ったし、オレも皆の所に行くか。
『しっかし、涼太ってなかなか言いやすいな』
心の中で何度も呟いて、その響きの良さを確かめる。今まで呼んでやれなかったぶんを埋めるように何度も。
藤井っちってのもなんかいいな。昔は黄瀬に名前呼ばれんのもいやな感じだったけど、今は別に……
『あ、やべ始まったかも』
物思いにひたりながらゆっくり観客席へと歩いていたら、会場内からは一層大きな歓声が湧いた。結局テツヤと会えなかったし。
とりあえず急いでおこう。
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