認めてやるよ、仕方ねぇ (2/3)
携帯のリダイヤルから黒子テツヤの名前を探し発信ボタンを押した。プルル、プルルと何回かコールが鳴ったのちに「こちらはお留守番電話サービスです」と無機質なお姉さんがでた。
そういえは、財布以外の荷物はみんな観客席に置いてきたっけ。多分テツヤは携帯も置いてきてる。
「歩くしかないかぁ…」
この会場広いんだよな。インターバルが終わるまであと数分しかないのに、試合が再開するまでにテツヤを見つけることができるだろうか。
ともかく歩かないとどうにもならない。テツヤの行きそうな場所なんて知る分けもないので、とりあえずこの道を真っ直ぐ行ってみよう。どこへ繋がるかは知らないが。
「あれ、藤井?」
『誰……ああ』
なかなかテツヤが見つからないからもう帰ろうかと、足を止めたら後ろから呼ばれた。
振り向けば、黄色の髪をなびかせる長身のイケメンがいた。バスケやって汗だくになったはずなのになにこの爽やかさ。
『ちょうどいいとこに。テツヤ知らね?』
「黒子っちならさっき外で会ったっスよ」
『うわーマジでか』
こっちと真逆じゃん。すれ違いどころか全く逆の方向を探してたわけか。
ありがとうと黄瀬に言って、奴の隣を通り過ぎ……ようとした。
『なんだよ』
すれ違い様に黄瀬に腕を捕まれ歩みを止められる。さりげなく振り払って知らん顔して立ち去ろうとした。だってコイツといてもろくな事起きない。だが黄瀬の力が以外にも強く、失敗。完全に捕まった。
「オレに、なんか言うことないっスか?」
『はあ?』
ナニソレ。このオレに「黄瀬君頑張ってキミなら勝てるよ」とでも言って欲しいって?ふざけんな。
この前の練習試合以来、黄瀬のオレに対する認識は良くなって様な気がする。が、オレはまだ許してない。許してないってか、今さら仲良くなる方法を知らない。
『何もねぇ』
「それは残念っスね…」
『あっそ』
本気で残念がってる黄瀬。眉が垂れて、目が伏せられる。オレは知らんぷりして腕を強くしてって黄瀬の手から逃れた。
『……仕方ねぇな』
黄瀬に背を向け歩くこと数歩。オレの背中にはずっと奴の視線が刺さったままだ。このまま観客席に帰るのはなんかすっきりしない。これで試合中に黄瀬のモチベーション下がったら、オレのせい見たいじゃん。
だから言う。この際だからはっきりと。
『誰かを憧れんのはいいことだ』
黄瀬が大輝を憧れ、オレが征十郎を慕うのは、きっと同じ。
『それで強くなるならさ』
アイツに笑って欲しくて、喜んで欲しくて練習に明け暮れた。オレにはソレしかないと思ってたから。
『でもさ、お前はもうひとりで大丈夫だよ』
突き放された孤独に耐えられなくて逃げたオレと違って、黄瀬は自分で判断できる力を持ってる。
『だから頑張れ。諦めんなよ』
オレたちには今、帰る場所があるだから。昔のしがらみなんて関係ない、「今の自分」を見てくれる仲間のためにさ。
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