オセロゲーム Part3 | ナノ
憧れは悪いことじゃない (3/3)





「まさか……」

「たぶん、そのまさかです」


テツヤも黄瀬のやろうとしている事を察しているようだった。オレよりテツヤの方が、黄瀬との付き合い長いのだから気付いて当然か。


「確かムリって言ってなかったか!?」

「はい……でもそれしか勝つ方法はありません」


黄瀬にとってまさに苦渋の決断。しかしテツヤの言うとおり、勝つための方法は一つしかない。


『敵の技はすべてコピーする。たとえ大輝でも…』

「黄瀬君がやろうとしていることは、青峰君のスタイルの模倣です」


追いかけるだけでは勝てない。だから憧れるのを止め、大輝を敵とみなす。すべてはこの勝負に勝つために。


「青峰の模倣!?そんな…できるのか!?」

「……そもそも黄瀬君の模倣というのはできることをやっているだけで、できないことはできません」

「は……は!?」


いつのまには先輩達もオレたちの話を聞いていて、難しい話が苦手な小金井先輩が話についていけなくなった。見兼ねたカントクが詳しく答える。


「つまり……簡単に言えば「のみこみが異常に早い」ってこと。NBA選手の模倣とか、自分の能力以上の動きは再現できない」

「だが、逆に言えばそれでもやろうとしてるってことは、「できる」と信じたってことだ」

『そーいうことっすね、鉄平さん』


彼の言うとおり黄瀬は覚悟を決めたのだ。ただ、オレは黄瀬との付き合いがあるわけではないから実際の心情なんて詳しく読むことはできない。
でも、きっとそうだ。"今の"チームで勝利を掴むために昔の思いに蓋をする。それがアイツの出した答えなんだ。


『………』


ほら、やっぱりバスケに執着すると辛いことばっかりじゃないか。
オレは、独りぼっちになった昔の自分を黄瀬に重ねた。
ああ、だから……


──オレは黄瀬をあんなにも毛嫌いしていたのか。


青峰っち黒子っち…とまるで主人の事が大好きなゴールデンレトリバーのように幸せそうに後をついていく黄瀬の姿が、「征十郎、ねえ征十郎、」と呼び掛ける自分と重なる。オレも黄瀬も、呼び名に込めた思いは一緒だ。まったく同族嫌悪もいいとこだ。
ああ、つまり……


──いつまでも離れられないオレを、征十郎は逆に"突き放して"くれたということか。



『ははっ……』


今更になってやっと気付いたとか、オレっていつからこんなに考えなくなったんだろ。
背もたれに体を預け天井を見上げる。自嘲気味に吐いた笑いを聞いたテツヤがこっちに視線を送ってきたようだが、オレは気づかないフリをした。



鉄筋がむき出しの天井を見ながら体育館内にビーッと響く耳障りな電子音を聞く。そのあとにはボールがリンクをくぐる音。
沸き上がる会場の歓声によって、ブザービーターだってことがすぐに分かった。そんなことを飄々とやってのけるのは一人しか居ない。


『恐ろしいわぁ、今吉さん』


腹黒メガネの口調を真似てみたが、オレには似合わなかった。


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