オセロゲーム Part3 | ナノ
‐Tip off‐ (4/4)





部屋には将棋の駒を置く音だけが響いていた。パチ、パチと1人で詰将棋をしている男がいる。


「赤司」

「緑間か、どうした?」


赤司と呼ばれてその男は局面から目を離すことなく入り口で立つ男の声に反応した。


「今日黒子と黄瀬の二軍同伴を勧めたそうだな」

「別に……黄瀬はすぐにユニフォームを着る。先に黒子の力を紹介した方がいいと思っただけだよ」

「すぐに……か。相変わらずなんでもわかったようなことを言う」

「……わかるさ。黒子の力を見出したのだってオレだぜ?」


赤司は自信に満ちた笑みを浮かべながら言った。当然であると。


「その力を"形"にしたのは藤井なのだよ」

「…ああそうだな」

「ならばなぜ、」

「その話は止めにしないか緑間」

「っ!?」


急に目付きが変わった赤司に睨まれ、緑間は言葉を詰まらせて藤井の話を続けることができなかった。全身に鳥肌がたって悪寒さえ感じるのだ。


「……角はね、使い方次第ではいくらでも強くなれるんだ」


まばたきをした赤司は射ぬくような目付きを止めて将棋盤に視線を移す。パチ、とまた駒を進めた。


「そして、いずれはこの王将すら取れるほどになる」


ちょうどこの角のようにな。と赤司は角行で王手を指した。


「赤司、それは……」

「だからアイツはオレと一緒じゃいけないんだ」


角の一手によって逃げ道がなくなった王将を見て、赤司は満足気に笑った。





 ***





テツヤが加わり、怒濤の責めによって83対81で何とかなんとか勝てた。試合内容はともかく、久しぶりになかなか楽しい試合ができたと思う。


「……藤井、っていったけ?あんた」

『君は…黄瀬君だっけ』


帝光への帰り道、不機嫌な顔したモデル君がオレに声をかけた。でけぇなコイツ


「確かアンタ、一軍にいたことあるんスよね」

『ああ、まあね…でも最近二軍に』

「………認めないっスよ」

『は?』


黄瀬君が何を言いだすのかまったく分からなかった。認めないって、いったい何を?っつーか視線が痛いよモデル君。


「黒子っちがずいぶん高くあんたのこと評価してたっスけどオレは認めない」


ああなるほど。と黄瀬君の言っている意味がすぐ分かった。
そういえば試合前、テツヤに生意気な黄瀬君をぎゃふんと言わせて欲しいとかどうとか言われてたっけ。駒木のラフプレーが激しすぎてすっかり忘れてた。


『オレだって黄瀬君とサシでやって勝てると思ってないよ』

「は?」

『でも光を最大限に生かすゲームメイクならテツヤにだって負けない』


きっと黄瀬君にはオレの言ってる言葉を理解なんてしてないだろう。別にそれでもかまわない。


『誰になんと言われようとオレはオレのスタイルを貫くよ。黄瀬君は取った点数イコール強さだと思ってるのかもしれないけれど、』


見えない強さもあるんだよ。そう言うと、「わけわかんないっス」って返ってきた。
いいよ別に。いつか…そのうち分かってくれればそれでいい、と心の中で言いながら一軍がいる第一体育館に帰る黄瀬君の背中を眺めた。




 ──この数週間後、藤井直也はバスケ部を退部。この駒木戦が中学時代最後の試合であった。




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