オセロゲーム Part3 | ナノ
‐Tip off‐ (1/4)




「おい藤井」

『はい』


なんの前触れもなく突然コーチに呼ばれた。試合中に久しぶりに声を出した気がする。


「今度の練習試合、一軍レギュラーが2人来る。おそらく顔馴染みが来ると思うから面倒見てやってくれ」

『……はい』


コーチが考えてることはすぐ分かった。万が一でも一軍の彼らが怪我でもしたら、監督不行き届きということでコーチ自身の首が危ないからだ。
保険は多いに越したことはない。


「じゃ、週末よろしくな」

『はい』


そしてまた、オレは口を閉ざした。




 ***




「お久しぶりですね直也君」


今日もいい天気だなあと、雲一つ無い空を眺めながら歩いていたら、隣から声を掛けられた。
部活中に話し掛けるなんて思い切ったコトをするんだな…なんて思いながら目をそちらへ向けた。


『おうテツヤ』


そこにいたのはよく知っている顔だった。


『髪伸びたな』

「ええ、忙しくて切る時間が取れな…」


途中まで言って、テツヤは何かに気付いて喋るのを止めた。


『どうした……ああ』


話を切ったテツヤの意図に気付いたオレは、手の平どうしをポンと重ねた。


『気にしなくていいのに』


三軍から大抜擢されて充実した日々を送ってるテツヤと、ちょっとしたミスの所為でユニフォームを無くしたオレ。
二軍に降格したオレを、教育係をしていた事もあって彼はずいぶん気に掛けてくれていた。


「そうですか…あ、直也君そういえば」


忘れるところでした、とテツヤは言った。


「黄瀬君に勝負を持ちかけられました。どちらが多く点数を取るかっていう」

『テツヤに?』

「ええ、ボクに」

『バカだろ』


そんなの勝負する相手を間違ってる。さしずめ、テツヤがレギュラー選手だってことに疑いでも持っているのだろう。


「だから、ボクじゃなくて直也君と勝負すればいいと言っておきました」

『……え?』

「どうか生意気な黄瀬君をぎゃふんと言わせてくださいね」

『ちょっ、』


どうしてオレなんだとか、オレはやりたくないとか面倒だとか言ってやりたいことはあったのに、テツヤは薄く笑ってどこかへ行ってしまった。


『くそっ、ミスディレクション使ったな…』


そういう使い方をするために教えたんじゃねえよっての。




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