ちょっとずつ (1/4)
夏休み。
電車を乗り継ぎガタンゴトン。
都市中心部から少し離れた郊外の静かな海岸に、オレたち誠凛高校バスケ部は降り立った。
「あー、着いたー」
『腰がバキバキいいます』
長時間座ったままだから背伸びをするとちょっと辛い。
「磯の香りが……ハッ!いそがねば!」
「カントクは?」
「色々持ちこむ物があるから車だと。あと伊月だまれ」
『だ、そうです伊月先輩。残念でしたね』
伊月先輩のダジャレと主将のツッコミが健在で、見てるといつも楽しい。
「いい所っすねー」
「すぐ地獄に変わるけどね…」
先輩の顔色が悪くなった。
オレも、カントクの作った仮メニュー見たら吐き気がした。
「お」
『おぉ…』
駅を出て、しばらく歩けばそれは姿を現した。
「海だ!!泳ごう!!」
「合宿だ!!ダアホ!!」
『ビーチボールは準備済みです!』
「オレたちはバスケすんだよバカ!!」
『ちぇっ』
遊び心が足りないなぁまったく
***
「う〜ん…ビミョー……」
「つーか、ぼれぇ〜」
駅から歩いて数分。
民宿の波切荘へとやっと着いた
『お土産買ってきていいですか』
「すみません、トイレは」
「うるっせーよオマエら!!」
慣れない場所でそわそわし通しのオレらに、主将はいちいち叱り飛ばす。
そんな主将も実はテンパってることは、結構皆気付いてたりする。
「いやあ…いいじゃねーか。もしかしたらいるかもしんねーぜ、まっくろくろすけが……!」
「すげぇイラッとくるよ木吉。高校生なめんな!!」
鉄平さんの渾身の大ボケにとうとう主将がキレた。
『……あ、車』
その時丁度、ワゴン車が一台目の前で止まった。
「うん、時間ピッタリ。みんないるわね?」
「じゃあリコ、あとこれをあそこに置いときゃいんだな」
「うん、ありがとーパパ」
車から出てきたのはカントクで、なにやら車にはたくさんのモノが入ってる。
「おうガキ共、せいぜいがんばれよー」
「あざーすっ」
乗ってたのはグラサンかけた人相のあまりよくないオヤジさんだ。
けど雰囲気はそんなに悪い人ではないみたい。
「あ……けどな」
『?』
窓から手を振り、そのまま去っていくと思いきや、ブレーキをかけて車は止まった。
「娘に手ェ出したら殺すぞ」
「はいっっ!!」
しっかり脅して、パパさんは今度こそ去っていった。
『なにあれ怖い』
前言撤回。
やっぱり怖い人だ
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