やることは決まった (3/3)
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─僕が"キセキの世代"を抜きます
その言葉が、火神とテツヤと別れて1人で走ってる今も頭の中でループしてる。あの時テツヤは確かに言ったのだ。自分がキセキの世代を倒すと。いつも謙遜ばかりしてキセキは別格で、自分なんか足下にも及ばないなんて言ってたあのテツヤが。
「テツも成長してんだなぁ…」
それに比べて自分はどうだろうか。トラウマだ実力だ何だと口ばっかりでちっとも前に進んじゃいなかった。
『オレもなー…』
そろそろ本腰入れて頑張らないといけないことはよく分かってる。でも実際上手くいってないから悩んでるのだ。
『誰か助けてー………なんて』
いつもならこういう時は、征十郎がなにかと手助けをしてくれてた。なのにアイツから離れて二年も経つのに全然昔のクセが抜け切ってない。バスケをすればする程、恋しくなるなんて。
「お困りかい?」
『!?』
感傷に浸っていたら隣から声が。
『てってててて、鉄平さん!』
いつのまに並走なんてしてたんですか。火神じゃないけど、考え事しながら走ってると周りって見えないもんなんだな意外と。
『なんで……え?』
「いやー部屋から海眺めてたら藤井を見つけてさ」
見てたら自分も走りたくなったのだと、鉄平さんは言った。
『えっと……』
走りに来た理由は分かったけど、わざわざ隣に来た意味がわからない。走るなら自分のペースの方がいいだろうに。
「……悩み事でもあるのか」
『へ?』
「違うのか?顔に"悩んでます"って見えたんだが」
気のせいだったのかと鉄平さんはひとり呟く。いや間違ってはないが、普段ボケボケしてるくせにどうしてこの人はそういうとこに敏感なんだろうか。
『あー、えっと…』
「うん」
『先輩はどうして誠凛に来たんですか?』
「うん?」
『あ、いや、別に答えて欲しいわけじゃないんスけど』
自分の場合は逃げるためだったから。
『新設校ならキセキの世代は来ないし、同中の知り合いも合うことは無いだろうって、』
思ったんです。
昔の辛い事全部忘れられるのはここしかないって。
『思ったんですけどねえ…』
どういう運命の巡り合わせだろうか。自分はこうしてバスケをしている。しかも最近、練習し上達していくのが楽しいかもとか思い始めている。
『人間って不思議なもんですよねー…って、なんかスミマセン変な話して』
いつのまにか図々しくも自分のコトばかり語っていた。
でも先輩は、いいよ、とだけ答えた。深く追及してこない鉄平さんの隣はなんだか落ち着く。
「じゃあそろそろ帰ろうか。あまり走ってばかりいると膝に障るから」
『そうですね』
オレと先輩は来た道をゆっくり戻り、自室に戻って布団に倒れ込む。久しぶりにぐっすりと寝ることができた
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