越えられない壁=身長 (3/5)
オレは昔から背が低かった。
ただでさえ小さい自分を気にしていたというのに、小学生高学年あたりから周りの奴らは次々と成長期を迎え声変わりして身長もぐんぐん伸びて、男らしくなっていった。
「あーやだやだ」
現在中学生活一回目の夏休み。
オレにはまだ成長期がやってこない。背丈だって並んだ時に前から数えた方が早いし声色だって女子のソレと間違えられるほど。
何より、バスケ部っぽくないと言われたことが1番辛かった。
「悩み事かい直也」
「ああ、征十郎か」
誰も居なくなった部室のベンチでひっそりと肩を落としていたところに征十郎がやってきた。
彼もオレと同じように身体測定の記録用紙を持っている。
「おまえも仲間だよな征」
「直也と一緒にするな」
「あいたっ」
自分よりちょっぴり目線が高い征十郎。コイツだって成長期はまだ来てないはずだから仲間だよなって言うと、グーでこづかれた。
「これ以上小さくなったらどうすんだよ」
「オレとしては万々歳だけど」
「くぅ…」
ベンチに座るオレを見下ろす征十郎。いまに見てろ、すぐにその背を追い抜かして見下ろしてやる。
「そんなに焦らずとも、」
「ん?」
征十郎が一度言葉を区切ってオレの隣に座った。燃え上がった夕焼けのような双眸がオレのと並んだ。
「バスケするにはさ、オレ直伝の"目"があれば十分だろ」
征十郎から伸ばされた手がオレの目元をなぞる。くすぐったい感じはしたが嫌ではなかった。
「直也の目の色、オレは好きだけどな」
「……ありがと」
昔に、満月の夜空のような目をしてると征十郎に言われた。自分とは正反対な色だと。
「それにドリブルやスティールも得意だろ?」
それだけでは足りないのかと征十郎は訊ねてくる。身長が全てではないんだぞ、と言い聞かせてくれる。
人によってはキツい言い方に聞こえるかもしれないが、これでも彼は気を使って慰めてくれてるのである。
「やっぱ征は良い奴だな」
「なにを今さら」
ぶっきらぼうに冷たくあしらわれたけど、その背けた顔が赤く染まってるのなんてオレにはお見通しだ。
「照れなくていいんだぞ征ちゃん」
「うるさい直也。その呼び方は止めろと言ってるだろ」
「あいたっ」
また後頭部をこづかれた。
この調子で叩かれ続けたら本当に縮んでしまうのではないか。そんなわけないと分かっていながらも考えてしまう。
優しさに包まれて
(コイツには適わないと思った)
(越えられない壁=身長)
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