この一歩は大きい (3/3)
「オレが倒す前にそう何度も負けてもらっては困るな。来い、その癪にさわる過大評価を正してやる」
真太郎は転がっていたボールを拾って、火神へと投げ渡した。
『どうしたんだよ真太郎。急にやる気出してさ』
「別に火神の為ではないのだよ。オマエがやっと真面目になったのだ。コイツが下手な試合して藤井の足枷になってはしょうがないからな」
『あ、そう…』
何かと理由をつけて誤魔化そうとする真太郎。ちょっとは素直になれよとよく言ってやってたのにまだ直ってないのか。というかオレを理由に出さないでくれとばっちりを食らうのはごめんなんだが。
『いいからちゃっちゃとやりなよ面倒くさい奴らだなホントに』
オレは大袈裟にため息をついて、さっさと1on1を始めるよう促した。
「ふん、いいだろう。10本だ。オマエが攻撃オレが守備、一本でも取れたらオマエの勝ちだ」
「あ?どーゆーつもりか知んねーけど、10本連続で防げるつもりかよ?止められるもんなら止めてみやがれ!」
「安心しろオレの負けはない。今日の占い、かに座はしし座に順位も相性も完全に上位だ」
かくして両校のエース同士の対決が始まった。
どれ、オレは角の方で邪魔にならないよう得点でもつけてようかね。
***
『おー、やるね真太郎』
ダム、キュッ、とシューズやボールがコンクリートと擦れて音が鳴り、心地よいそれらの音を奏でながら彼らは一進一退の攻防を続ける。
「くっ……」
「心外なのだよ。まさかオレが3Pしか取り柄がないとでも?」
詰めあぐねている火神を前に真太郎は完璧なディフェンスをした。
なんとか抜くことができても、ダンクをことごとく弾いていった。
「なっ…」
今回もまた弾かれる。
ジャンプ力だけを見れば火神が圧倒的であるのに…ボールはリングを潜ってくれない。
『これで5連続だけど火神君』
そろそろ、そのすっからかんな脳ミソからダンクという言葉を棄てたらどうだろう。単細胞でできてるのかその頭は。
「くそっ、もう一本だ」
「やめだ。このままでは何本やっても同じなのだよ」
「なっっ、テメェ……」
何度やっても進歩のない火神に嫌気が差したのか、真太郎は勝負を途中で投げてしまった。
オレも、ガリガリと削って使っていた石をコロンと投げた。この石の役目はもう来ないだろうから。
「いいかげん気づけバカめ。どれだけ高く跳ぼうが止めることなどたやすい。なぜなら、必ずダンクがくると分かっているのだから」
メガネのブリッジを上げながら語る真太郎の言葉にオレも頷きを返した。
本当に、5回も同じ失敗をして気付かないのだから火神にはほとほと呆れる。
「いくぞ高尾」
「あり?バレてた?」
踵を返した真太郎は、草の陰に隠れていた高尾に声をかけた。
ああ、よく見たらテツヤもいた。
「……WC予選でガッカリさせるなよ」
「……はい」
たった一言だけ、テツヤに告げると真太郎は高尾と共に去っていった。
『えー真太郎、オレにはアドバイスくれないのか?』
「冗談は止すのだよ藤井」
今さらオマエに言うことなどないと呟いて真太郎は振り返らずに宿屋に帰って行った。
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