本質を探る (3/3)
ダム、ダム、ダム。
ボールが不規則に地面を鳴らす。
右左右とフェイントをかけた。さっきはここでレッグスルーからの右で攻めた。しかしそれはあっさりと止められたので、今度はフェイントからの左左右だ。
コレなら取れないだろうと、一種の確信にも似た自信が湧く。
「よっしゃ──」
『はいざんねーん』
「っこの、!」
バチンと痛そうな音が藤井の手の平からする。ボールはすでにオレの手にはなくて、ゴール下をコロコロ転がっていた。もう五回目だ。
『そろそろネタ尽きたか?今の手、一回目と同じ』
「うっせーな!なんで抜けねぇんだよ!?」
こっちはこんなに必死で仕掛けてるのに藤井は迷う事なくボールを引き剥がす。フェイントだってちっともかからない。
『お前みたいなわかりやすい奴の攻撃なんて、引っ掛かるわけないだろー』
やれやれとため息をつかれた。その行動がすっげーイラつく。そもそも、こいつってこんなに強かったか?
「こんなヤれる奴だったなんて聞いてねーぞ」
『火神が油断し過ぎなだけだ』
「そんなはずねぇよ!」
オレはいつだって全力で挑んでる。手を抜いてるつもりもナめてかかってるつもりもない。
「もう一回だ!次こそその壁ぶち抜いてやる!!」
『あーはいはい、やれるもんならどうぞ』
ダム、ダムッ、と再びボールを弾ませる。目の前で緩く構えてた藤井の雰囲気が急に変わった。隙がない。多分今までで一番集中してるんだと思う。
「くっ、」
どんな手を考えても抜ききるイメージが湧いてこない。オレはもう成り行きに任せることにした。
「いくぜ…」
腹を括って、右足を一歩前へ出す。
その時だった
「ずいぶん熱心ね」
「『!!』」
突然背後から声が飛んできて、振り向けばカントクだということが分かった。こんな近くまで来ていたなんて全然気付けなかった。
『カントク…』
ピリリと構えてた藤井も、発する雰囲気が柔らかくなった。
「あ、いや、ただ片したゴールがあったんでつい……ってだけす。ってゆーか結局この合宿、オレだけずっと砂浜走ってたんすけど…」
「あれ?そだっけ?」
ついでだから、1人だけ走ってばかりで全く練習に参加させて貰ってないコトを伝えると、カントクには笑顔で誤魔化された。ああ確信犯…
「しかも帰ったらいつも試合終わってるし!ったく、なんのためにこんな」
「もう何よ、自分のことまだ気付いてないの?」
「え?」
「じゃ、教えてあげるわ。ちょっと跳んでみて」
「?」
跳べだって?それが今までの練習と何か関係があるってのか?
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