主役はいつも遅れて登場 (3/4)
『ずいぶんゆっくりした奴だこと』
あの天才がやっと現れたのだ。
高鳴る胸とは対照的に手の平にはじっとりと粘り着くような嫌な汗が滲む
「おい藤井、ほんとうに行かなくていいのか?」
『大輝とやるなと伝言をくれたのは他でもないあんただろ真太郎。オレはその命令を守らなくちゃいけない』
もちろんオレにだって試合をしたいという気持ちぐらいある
でもできない。
『アイツの命令はオレにとって義務だ』
他の誰でもない、オレが決めたこと。
「なんでそこまで自分を戒めるんスか藤井」
『だって…たった一度の命令違反が、オレをここまで狂わせたんだよ』
あの時、オレが自分のやりたいバスケを押し通したからアイツは怒ったんだ。
そして二軍へ降格という重い罰を与えた
『だから二度と……』
ビ────ッ
「第2Q終了です」
オレの言葉を否定するかのようにブザーが鳴った。インターバルに入る
およそ一分間、大輝が加わったそのわずかな時間は点さえ取られなかったが、到底かなわぬ実力の差を見せ付けられるには十分だった
『でもまぁ、あれはないな』
あんな適当極まりない大輝に圧倒されては
「青峰っち……」
「まったく……気にくわん奴なのだよ。ノロすぎる、まるでやる気がなかったのだよ」
2人が心配するくらい、とにかく大輝は怠けてた。
『うーん……』
よく考えたらあのままではダメだって思えてきた。
アップも準備運動もしてないのに試合はさすがに危ないじゃないか
『ちょっと大輝んとこ行って来る』
「ええっ!?」
「何を言ってるのだよ藤井!正気か!?」
『本気本気。あんなテキトー男ほっとけないもん』
カバンを持って客席を離れる。
黄瀬も真太郎もなんでそんなに慌てるだよ
『大丈夫、ケガさせるわけじゃないから』
「いや…そうじゃなくて……」
黄瀬の話を最後まで聞かずにオレはその場を離れた。
***
「………なんて言うか、行動力ある人なんスね」
「ああ。こうと決めたらテコでも動かないのがヤツの困ったところだ」
2人が深いため息をついたのは藤井が知る吉もない
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