主役はオレじゃない (1/4)
ポツ、ポツと雨音がよく響く。
それはきっと、控え室が静寂に支配されているから。
『(お通夜かよ……)』
誰も何も喋ろうとしない。
心が、完全に折れてしまったのだ。
『マジでモチベーション下がるっつーの』
誰にも聞こえないように呟いた。
ただし、この静けさだから耳のいい人は聞き取ったかもしれない。
「……みんなあのね…」
「カントクいいよ!」
「え?」
「どうせなんかバカなこと言うだろ」
「う…」
何か言いだそうとしたカントクは主将に止められる。
また静かになってしまった。
「藤井ー」
『何ですか小金井先輩』
ベンチに座ってる先輩はオレを見上げて、iPodを指差す。
「何聞いてんの?」
『おは朝ですよ』
「おは朝?」
『正確に言うなら、おは朝の占いです』
今ちょうど4位辺りを発表してる
蟹座はまだ出ない
『真太郎、この占いで順位が良いと調子いいんですよ』
「んなアホな…」
小金井先輩は半信半疑、というか信じてないだろう。
でも本当なんだから仕方ない
「黒子は…何してんの?」
オレと同じように1人でこそこそとやっていたテツヤは伊月先輩に気づかれた。
「前半ビデオ撮っといてくれたそうなので、高尾君を」
『ああ、あのビデオ…』
ビデオのスタンドが立たない!って試合前にカントクが大騒ぎしてたアレか。
アレって結局土田先輩が立ててくれたんだよね
「なんか勝算あるのか?」
「え?さあ?」
「は?」
「「勝ちたい」とは考えます。けど、「勝てるかどうか」とは考えたことないです」
テツヤはビデオを見ながら自分が思っていることを話し始めた。
滅多に無いことだ
「てゆーか、もし100点差で負けてたとしても、残り1秒で隕石が相手ベンチを直撃するかもしれないじゃないですか。だから試合終了のブザーが鳴るまでは、とにかく自分の出来ることを全てやりたいです」
『……………ぷっ』
試合中のテツヤの頭ん中でその風景が思い浮べられてると思うと……笑いが…
「いや!!落ちねぇよ!!!」
「え?」
「隕石は落ちない!!てかすごいなその発想!!」
「いや……でも全員腹痛とかは……」
「つられるな!それもない!!」
テツヤの豊かな想像力のおかげで場の雰囲気が和やかなものに変わっていった
「まーねー、それに比べたら後半逆転するなんて……全然現実的じゃん!!」
「とにかく最後まで走って……結果は出てから考えりゃいーか!!」
そうだ。
自分の実力不足うんぬんの話なんて終わってからいくらでもできる
「いくぞ!!」
「「「「おお!!」」」」
オレたちは、ただ足掻けばいいんだ
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