死線を越える (3/4)
『伊月先輩、主将は大丈夫でしょうか……』
ふと思ったのだが、主将ってたしか自販機に行ったような。
でも小銭は財布は持ってたか?
「手ぶらだったな」
『ですよね』
オレと伊月先輩は慌てて席を立った。
彼の安否を確認せねば。
『生きてますか主将っ』
「日向!!」
教室を出て右に曲がる。
するとすぐそこに、立ったまま動かない主将がいた。
「………フッ」
主将はゆっくり振り返って力の無い笑みを浮かべ、
「あとは頼む……」
たった一言だけそう告げて、廊下で倒れてしまった。
『……起きるまでこのままにさせてあげましょう』
「そうだな」
調理室にもどしたら、またカントクを気遣って無理をするだろう。
オレと伊月先輩はこっそり調理室に戻った。
「……つーわけで、誰かリコに作り方教えられねーか?」
「じゃあ水戸……てゆうか木吉、変な汗超出てるよ!?」
「おかわりはやりすぎたぜ」
鉄平さんは真っ青な顔してガタガタ震えていた。
マジでヤバいなあのカレー
「水戸……気ィ失ってる!!?」
唯一の頼りの綱、水戸部先輩は真っ白になって気絶していた。
「じゃオレか伊月!?そんなに上手くないよ?」
「藤井は?」
『カレーはちょっと専門外…』
じゃあどーすんだ!と、小金井先輩が慌てはじめた。
「あの……ちょっとそこら辺の残りモンでメシ作っていいすか?」
「!?」
火神君はエプロンを着けて料理をはじめた。すごく手際がいい。
「火神!?料理出来んの!?」
「できるっつーか、ハラへって……カレーはほとんど食えねーし」
慣れた手つきで野菜を炒めると、あっという間に完成した。
「こんなもんかな」
「えええ!?なんかすげぇうまそう!!」
『ちょうどいい焼き加減に食欲を誘う匂い!』
カレーがあんなんだったから、余計旨そうに見える。
「炒めただけすけど……米もらっていいすか?」
「ちょっ……一口くれ!!」
火神君の作った野菜炒めを小金井先輩は味見をした。
「うめぇぇ!!火神お前…なんで!?」
「いや、オレ一人暮らしだし。ちょいちょい作る」
『まじか!』
いつもバーガー食ってそうなイメージしかなかったから、料理するなんて驚きだ。
「火神君!カレーの作り方を教えて……!まさかキミにこんなこと言うなんて思ってもみなかったわ」
「いっすけど、オレちょっと厳しいっすよ!」
恥を忍んだカントクの申し出を、火神君は快く引き受けてくれた。
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