02
ああ暑い。こう毎日毎日、日差しが厳しくてはおちおち昼寝もできない。実際に今日も昼寝のために屋上へ来たのだが暑いのなんのって、とりあえずコンクリートが焼石のようだった。つまらない意地を張って寝ようものなら5分で焼き上がってただろう。
オレは暑さに耐えきれなくて屋上から校舎に戻った。
「ったく…」
「どうしたんですか青峰君」
「ぅお!?」
階段下に突然女が。あ、アイツはこの前お寺にいた奴じゃねえが。同じ高校だったのか。それにしても相変わらず無表情で女に見えねぇ女だな。
「コンクリ暑くて昼寝になんねぇんだよ」
「昼寝ですか」
奇遇ですね私もです。なんて、階段下にいる女は腕を組んだ。よく見ると組んだ腕の中にはハードカバーのあまり厚くない本が数冊。
「あそこは静かだから読書に最適だったんですけどね…」
「よく行くのか?」
「ええ」
じゃあ見かけたことあるかも。と言ったら「それは無いです」と即答された。私を見つけられる人はそうはいませんから。やや自虐気味に呟いた女の表情は、やはり読めなかった。
ただ立ってそこにいる。そんな感じだ。
「他に、いい場所知らねぇ?」
「昼寝ですか?」
「ああ、そう。快適に寝れる場所だよ」
オレはドアの前で、女は階段下でずっとこうして居るわけにはいかないだろうし。涼しくて広くてセンセーに邪魔されないとこならどこでもいい。
「……なくは、無いですよ」
口元に手を当てて少し悩んでからそう言った。
「青峰君も行きますか?」
「いく」
気だるい足を動かして女の数歩後ろを歩き、階段を下っていく。寺で会ったときは気づかなかったけどコイツ、女としてはでけぇ方だな。色白いし
「ところで、お前なんでオレの名前知ってんだ?」
「だって青峰大輝っていったら、スポーツ推薦の問題児でデカくて黒くて素行が悪いのでうちの学校ではけっこうな有名人です」
「……不名誉な肩書きばっかりじゃねぇか」
まあ自分でも目立ってるって自覚はそれなりにしてる。でも中学ん時からそうやってきたから今はもう誰に何を言われても気にしない。
他人に媚売ってご機嫌とって表面上の付き合いばっかしててもめんどくせぇだけだし。だったら居ないほうが静かに昼寝できる。
「ここです青峰君」
「は?」
三階まで降りて右へ曲がってつきあたりにあるこの場所。ドアの横に立て掛けてある立派な木製の看板には筆で「生徒会執行部」と書いてある。習字なんてお正月にさつきの邪魔をしに行った時ぐらいしかやった事ないから巧い下手はよく分からないが、これは巧い部類に入るんだとすぐに思った。
「ここが…なんだって?」
「涼しくて広くて邪魔されないとこ」
さあ入りましょうなんて平気な顔して女は部屋に入っていった。おいおい、いくら誰も居ないからってココはまずいだろ。
「心配いりませんよ。私、まだ見つかったことありませんから」
そういう問題じゃねぇだろって、思いながらもやはりエアコン付きという誘惑には勝てなかった。
まあいいか。(ところで女、名前なんだ?)
(……山田花子です)
(ウソつけ)
(ええ嘘です)
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