空色少女 | ナノ
13




「おーいナギサ」
「わっ」


そよそよと風が涼しい屋上。読んでいた本が手元から消える。青峰君に奪われたからだ。あ、栞を挟んでないのに閉じた。次読むときに何ページからか探すの大変なんですよ。間違って数ページ抜かして読んじゃったりするとネタバレされた時みたいにスッゴいブルーになるのに。
立ち上がって、本を取り返すため精一杯腕を伸ばす。たまにジャンプもしてみる。しかし青峰君も面白がって本を持った右手を天高く掲げる。そんなことしたら絶対取れない。


「私で遊んでますよね青峰君。どうせあなたが持ってても、読みもしないどころかタイトルにだって見る気もないんですからさっさと返してください。ほら」


そう言うと、ムキになった青峰君はタイトルぐらい読めると口を尖らせながら、書店でつけてもらったブックカバーを雑に剥がした。ああもっと丁寧に…。
青峰君は本のタイトルを縦横に動かしながら、マケ?と呟いた。残念ながらそれはメイクですね。英語です。makeをローマ字読みしないでください。それでもあなた高校生?


「うっせーなー。お前、寺の子なんだからもっとソレっぽいの読めよ。お経とか」
「暇潰しにお経なんて読むわけ無いでしょうアホ峰。それに私は寺の子ではありません」


あそこは下宿させて頂いてる親戚の家だと言ったでしょう。もう忘れましたか。記憶力すら悪いなんて、ただの救えないバカですね。


「いいから返してくだ、んむ」


私の身長ではどう足掻いたって届かない所まで高く掲げ上げられた本に両の手を伸ばす。そしたら、両手は青峰君の大きくてゴツゴツした手に拘束され、ついでに口も塞がれた。


「んっ…」


いつもこうだ。口喧嘩で私に勝てないとなるとすかさず口で口を塞ぐ。しかも上手いんだものズルいよね。


「……もうっ」


息が苦しくなったので、腕の拘束を振り切り青峰君から数歩離れた。はあ、はあ。私はこんなにも肩を上下させて息を整えようとしてるのに、彼はしてやったりと言うかのように意地悪く笑うばかりだ。


「なんだ、顔が真っ赤だぜ?」
「っるさいですよ、このエロ峰。さっさと部活に行ったらどうですか」
「行かねえっての」


ふん。と鼻を鳴らす青峰君は部活って単語を聞いた瞬間不機嫌になった。青峰君の武器がディープなキスなら、私の武器はさしずめ「部活に行け」だ。まあ結局行かないんですけどね、彼。もう耳にタコができるくらい言ってるはずなのに一度だって言うこと聞いてくれた試しありませんからね。


「じゃあ何したら、あなたは部活に行ってくれるんですか?」


冗談のつもりで聞いた。彼のことだから、きっと堀北マイの写真集があるなら言ってやるとでも言うに決まってる。そうしたら、私はすかさずカバンの中に準備していたヤツを押しつけてやるのだ。
しかし、私の予想に反して、青峰君は真面目に悩んでる。驚いた、あなたでも悩むことあるんですね。


「あ、そうだ」
「はい」
「マネージャーやれよナギサ」
「……はい?」


どうだ妙案だろうって悪人面で笑う青峰君。なにが妙案ですか、そんなわけないでしょうがバカ。この人の思考回路どうなってるんだろう。呆れてもう何もいえない。


「えっと……バカですか?」
「オレはいたって真面目だっての」


ええ、そりゃあ冗談だって分かって言ってるんなら私だってこんなに焦りませんよ。問題なのは、青峰君が本気で思ってるってところにあるんです。たしかに私は、"ただいまを言うまでが学校だ"が活動目標に掲げてる帰宅部ですよ。
でも、だからって、こんな時期にマネージャー希望でバスケ部に入ってどうする気です?マネージャー経験は愚かバスケ経験なんてはっきり言ってほぼゼロですよ。何人でバスケするの?レベルですよ私の知識。


「ごちゃごちゃ考えんなよ。お前が体育館にいるなら、会いに行くついでに部活に行ってやるっていってんだ」


あ、そーいうこと…バカのくせにそういうのは考えつくのね。
私はブックカバーを広い、本を返して貰うためにドヤ顔の青峰君に近づいた。


「しね」
「はぅうう!!?」


彼の息子に一発入れてやった。青峰君はみっともなく内股になって転がり悶える。まったく、この惚気はなんですか。どうせ三日坊主が関の山。




ここにいる。
(ほら、立ってください)
(どっか行くのか?)
(原澤先生の所に入部届け貰いに)
(え?信じたのか?冗談なn)
(やっぱりしね)
(ぬおぉぉっ!)

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