12
来るたびに、毎回思うのだがここの寺は立派だと思う。
さあ女はどこだ。会って確かめなきゃいけない。オレはお前に惚れていたのか。それともただお前をテツと重ねていただけなのか。会えば分かる。
「…また部活サボったんですか青峰君」
「ぉわあっ!?」
背中をツツツーと何かでなぞられた。何だ。誰だ。オレは沸き立つ腕の鳥肌を擦りつつ振り向いた。
「お久しぶりです」
「お、おう…」
甚平みたいな動き易そうな修行僧のアレ着た女がホウキ持って立ってた。お前がそれで攻撃したのか。
「…お前、学校来てたか?」
何から話したらいいか迷った末、物凄くどうでもいいことが口から出てきた。
女はブスくれたようにちょっとだけ口を尖らして、行ってましたよ。と言った。そうか。ならスマン。
「1日一回は君の前を通ってました」
「マジかよ」
「それはさておき、」
青峰君。と、女は改めてオレに向き合った。身長差はテツと同じ。長さは違うけど髪色は一緒。オレを見返す目も、相変わらず何考えてるからさっぱり分からない。
ほんとう、どうしてこんなに似てるのだろうか。
「何か言う事はありませんか」
「あ?」
試されてる、て思った。この女はオレがここに来た理由もこれから言わんとしてることも全部分かってんだ。意地悪ぃな。ここんとこもテツっぽい……
「私とテツヤを、重ねてません?」
──ずきり。
女の言葉に胸の奥が傷んだ。ずきり、ずきり。あの真っ直ぐな目を見てると心臓をわしづかまれてる様な気持ちになる。
そんなんじゃねえ。ついアイツと重ねるのは、おまえらが双子だって分かったからだ。それだけだ。なのに、「チガウ」のたった3文字すら直ぐに言えなかった。
「無理しなくていいです、青峰君。テツヤが君にとってどれほどの存在だったかはよく知ってます。さよならを、告げずに来ちゃったんでしょう」
だから今サヨナラをしましょう。だなんて、何言ってんだよ。お前とサヨナラしたって、それはテツとやったことにはなんねぇんだ。
オレはちゃんとお前を見てる。なのに、なんで、オレは何も言い返せない。こいつの言うとおりだからか?
「だってこのままじゃ青峰君辛いだけです。テツヤといるみたいで、ズキズキしませんか?だから代わりに私とサヨナラしましょう」
女はもうオレに選択肢を与えてくれなかった。ホウキを右手で持って、頭を深々下げた。君はもっと気楽になるべきです。そう言いながら、下げた頭を上げることなくオレに背を向けた女。凛と伸びた背中がだんだんと遠ざかっていく。
いやだ。行くな。オレはもう何も手放したくない。
「待てよっ!」
口で言っただけじゃ女は止まらない。だから女の肩を掴んで止めた。抵抗するかと思ったが、彼女は大人しく立ち止まる。オレは女の前に回り込んで向き合った。
今度はオレから言う番だ。離れていくのがテツだったら、追い掛けてない。でもオレは足を前に出した。つまり、そういう事だろ。
「勝手に決めんなよバカ。オレがいつ、テツとお前を重ねてたよ」
「……いたいです」
「オレは別にお前といて辛いとか思ったことねえぞ」
むしろ、お前は何者だっていうモヤモヤが晴れてすっきりしてんだ。要らない心配はしてんなよ。オレはあんたに気ぃ使ってもらわなきゃいけないほど弱くはない。
女はまた「いたいです」って今にも泣き出してしまいそうな声で呟いた。痛いってのはオレが掴んで放さないこの華奢な肩か。違うだろ。イタくて辛いのはお前の方だろうが。
「そうやって、自分とテツを重ねて苦しんでるのはオレじゃねぇ。お前自身だ。」
オレはあんたをちゃんと見てる。たまに見失うことはあっても見間違うことは絶対しない。
「オレが、あんたの隣にいたいから居るんだ」
なんか文句あるかと問えば、女はくしゃくしゃに顔を歪ませて、ありません。と言った。涙で大変なことになってる頬を親指で拭ってやる。なんだ、泣き顔もなかなか可愛いじゃん。いつも無表情だから気付かなかったぜ。
「オレと付き合えよナギサ」
もちろんダメな理由なんてねえだろ。ナギサを、もう何処にも行かないようにギュッと抱き締めた。
イタイと言われたって、放すもんか
ここにいる。今度こそ、もう離さない
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