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誠凛に勝った。テツヤに勝った。桐皇は…オレは負けなかった。得るもんは何もなかったと言えば嘘になるかもしれないが、じゃあ何を手に入れたと聞かれればおそらく答えられないだろう。結果、誠凛戦とはオレにとってそれだけのモノだったということだ。
ああそういえばあの試合以来女を見てないな。一週間だ。あれほど毎日会ってたのに、この一週間はチラリとも見てない。自分は空気だと言っていたが、なるほどアイツが本気になるとマジで消えるんだな。ますますテツみたいじゃないか。
「ナギサちゃん…だっけ?」
まだ見つからないのー?と、ペントハウスで寝てるオレを嗅ぎつけたさつきが梯子からひょっこり顔を覗かせた。
「おめぇには関係ねぇよ」
「あーそうですかー」
仰向けに寝転ぶオレの隣にさつきが座った。
オレは寝返りをうって背中を向ける。いいだろ、もうそっとしといてくれよ。オレだってちょっとショック受けてるんだぜ?まさか…とはうすうす感じてたさ。でも信じたくなかった。
あの女の傍に居るのはなんとなく落ち着く。もしかしたらオレは、女とテツを無意識に重ねてたのかもしれない。だから一緒に居ると妙な安心感をもてたのだ。
「なあどう思うよさつきー」
「知らないわよ」
はあ、と深いため息が背中から聞こえてきた。そして「よっこいしょ」と四十路のオバチャンみたいな掛け声つけて立ち上がる物音。なんだ帰んのか。
「冷てぇな」
「冷たくてけっこう。だいたい、そんなに気になるなら会いに行けばいいじゃない」
「……ああ」
なるほどその手があったか。さつきナイス。頭いいな。
オレは体を起こして脱ぎ捨ててた上履きに足を通す。梯子をいちいち降りるのも面倒くさかったのでペントハウスから飛び降りた。
「じゃあちょっと行って来る」
「今部活中なんだけど?」
「んなもんサボるに決まってんだろ」
当たり前じゃないか。
オレの目線より高い所にあるくまちゃんパンツにサヨナラを告げ、木々の間に見える寺に向かった。
ああそうか。簡単なことじゃねえか
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