誕生日小話 | ナノ
水戸部凛之介

※水戸部家の家族構成に少々捏造が有ります。




「こんばんはーお邪魔しまーす」


 インターホンは鳴らさずに水戸部家に入ると、廊下を真っ直ぐ行った所にあるリビングからばたばたとちびっ子達の足音が聞こえた。乱暴にドアが開けられ、末の双子が走ってきた。もう小学三年生にもなったのにまだまだ無邪気な奴らだ。顔は凛之介そっくりなのに性格が反対過ぎて、双子を相手にするのは楽しい。


「おねーちゃんお帰り!」
「今日は唐揚げ作るんでしょ!?」


 体全体を使って嬉しさを表現する双子は私の手を引いてリビングへ誘う。私はただのお隣さんなんだがあの子らが物心つく前から水戸部家を自由に出入りしてるせいか、お姉ちゃんと呼ばれてる。一人っ子で尚且つ父子家庭の私のとっては凄く嬉しいことだった。


「お、皆おそろいだねー」


 リビングには、水戸部家の共働きで帰ってくるのが遅いお母さんとお父さんを除いて全員がそろっていた。つまり子供ら全員。テレビゲームに夢中の坊主だったり慣れた手つきで洗濯物を畳む中学生の妹。それ以外はぐーたらと好き放題やってた。自由だなーこいつら。


「あっ凛之介は座ってなよ!今日は私がご飯作るって言ったんだからさ」


 私は椅子にかけられてたエプロンを着て凛之介をキッチンから追い出す。でも…と困った顔をする凛之介だったが構わずエプロンを剥ぎ取り、双子に洗濯機に入れるように言う。
 仕事を貰った2人はきゃっきゃとはしゃぎながら脱衣場へ行った。我ながら子供達の扱いに慣れたと思う。


「もう大人しくしてなよ凛兄」


 オレも手伝う。と凛之介は千草ちゃんに救いを求めたが彼女は聞こえないフリして雑誌を捲る。彼女はすでに此方側に落ちているので訴えても無駄だ。
 行き場の無くなった手とともに肩もがっくりと落した凛之介は、背中を丸めたまま椅子に座って沈んだ。それを見てるとこっちが先に折れそうになるが、それじゃ意味ない。
 今日は凛之介の特別の日なんだから、働いてないでゆっくりしてればいいんだよ。


「………」
「………」


 小麦粉と溶いた卵をそれぞれボウルに入れ、今朝のうちにタレに付け込んで冷蔵していた鶏肉を冷蔵庫から取り出す。底が深いフライパンに油を入れてガスを点けた。揚げるにはまだ温まらない。先に鶏肉にころもを付けてしまおうか。
 卵を鶏肉に絡めたのち、小麦粉の中にコロコロと転がしていく。


「……あのさ凛之介」


 いつの間にか凛之介はキッチンに来ていて、なに?と、今まで一度だって吊り上げた事ない穏やかな目で語ってる。ぱちくり。子供の頃から変わらない優しげな瞳が静かに、語ってる。


「後ろに立たれると、気になるんだけど」


 よく味付けされた鶏肉を油に投入している時、凛之介はそっと私の背後に立ってその作業を見つめていた。
 大丈夫?火傷しないで揚げすぎないでよ。って、とっても心配してくれるのはありがたいんだけど密着し過ぎて逆に危ない。そのうち二人羽織のように後ろから手が出てくるんじゃないだろうか。


「私の唐揚げが食べれないって?」


 凛之介がそう言うなら別に作らないけど。私はわざとらしくため息を吐いて唐揚げをつついていた菜箸を取り皿にに置いた。慌てた凛之介がペコペコと頭を上げ下げしていると、「ただいまー」と疲れ切ったサラリーマンの声が。つまり水戸部家のお父さん帰宅。


「お、唐揚げのいい匂い!」
「つまみ食いはダメですって」
「いいじゃないか美味しいんだから」
「ちびっ子達が真似します」


 見てないから大丈夫。そういう問題ではありません。だんだん加速していく言い合いに、私とおじさんに挟まれた凛之介は私達を交互に見ながらおろおろする。血を見るような惨劇になるわけ無いんだからもっと楽にしてればいいのに凛之介。


「ああ分かったよ、すまんすまん」


 あっという間に折れたおじさん。意外と口喧嘩は苦手らしい…というか凛之介に似て争いごとは起きる前に避けるタイプだった。あ、凛之介がおじさん似なのか。


「あれ、その白い箱何ですか?」


 仕事用の黒いカバンともう一つ、真っ白な紙製の箱をなるべく水平になるように気をつけながら持っていた。ああこれね、と箱をテーブルに置いて蓋を開ける。
 すると中には人数分のケーキがきちっと詰められていた。イチゴにチョコにチーズ、モンブラン…数えてみたらどうやら私の分もあるようだ。


「わあ!おじさんありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして」


 にっこりと微笑むと、直ぐにその気になったおじさんは「お義父さんと言ってもいいんだよ」と調子に乗って胸を反らした。私のお父さんはお父さんだけですからと笑顔で断ったら、凛之介がしょんぼりと悲しい顔をした。…ように見えた。
 あれ、私何かまずい事でも言っただろうか。




12月3日
HAPPY BIRTHDAY 水戸部!


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