誕生日小話 | ナノ
高尾和成



 歯ブラシを咥えながらカレンダーを眺める。明日はとうとう高尾の誕生日だった。残念ながらまだプレゼントが決まってない。ここ1週間ほど悩み続けてるのだが、どれもしっくりこないのだ。
 女子への贈り物なら簡単だ。流行色のアクセサリーやペアになるものを与えればすぐその気になってくれる。それに、そんな大層な物じゃなくても誕生日ぐらいならお菓子でも十分に喜んでくれる。今まではそうやってきた。
 たが今回は違う。相手は男だ。遊びに行ったりゲームしたり買い物だって良く付き合う仲だがモノのやり取りはした事がない。オレたちの間は、そんなモノなくとも繋がっていたから。「愛の証明が欲しいの」なんて言うバカな女とは大違い。故に分からなかった。高尾は何で喜んでくれるのか。
 もちろん、おめでとうの一言で高尾は喜んでくれるだろう。アイツはそういう奴だ。でも敢えてオレは何かしてやりたいと思った。一応、高尾もスポーツマンだから体調管理もしてるだろうし、お菓子以外が好ましい。
 今まで数多くの女を相手にしてきたけど贈り物でこれほど悩んだことはない。なんなんだ、いったい。


……いいや。もう寝よう


 たぶんこのまま考え続けてもいい案なんて出ないだろう。こう、困った時はいつも高尾に相談してたが今回ばかりはそれができない。
 明日は明日の風が吹く。高尾がよく口にする言葉。よし、もうコレでいこう。オレは歯磨きを終えて床に就いた。



 :



「おは朝うらなーい!今日のあなたの運勢を発表〜」

 次の日の朝、制服に着替えてリビングに降りるとテレビからいつもと変わらず元気なアナウンサーが次々と順位を読み上げていく。あ、オレ四位…


『さあさあ今日の一位は……蟹座のあなた!なにをやっても上手くいく最高の一日になるでしょう。ラッキーアイテムは赤色のカチューシャ!いつもと違うあなたで周りを魅了させましょ〜』

「これだ!」


 また明日ーと爽やかな笑顔で手を振るアナウンサー。オレはこのアナウンサーに感謝した。高尾へのプレゼントが決まったのだ。赤色のカチューシャ。そういえば、前髪が鬱陶しいって高尾がぼやいていたような気がする。切ってしまえと言ったらカッコ悪いと渋っていた。


「たしか机の上に…」


 オレがバスケやってた頃、髪留め代わりにちょっと使ったことあるカチューシャ。結局すぐ髪を切っちゃったから、使わなくなった新品同様のカチューシャが机の上に置いたままにしてた気がする。


「あったあった」


 我ながらとんでもない誕生日プレゼントの決め方だと思うけど、これこそ高尾に必要なもんだろう。
 まだキズもついてない赤色のカチューシャをそっとカバンに入れて家をでた。





「おはよー高尾」
「はよ」


 教室に入ると月バスを読む高尾がいた。毎日遅くまで部活をしてるのに、よく寝坊しないもんだ。おまけに成績優秀。そういう所は本気で尊敬してる。恥ずかしいから本人には言わないけど。


「そういや高尾」
「ん?」
「今日誕生日だろ」
「ああ」


 そうだっけ。と教室に掛けてあるカレンダーを見ながら前髪を掻き上げる高尾。本人曰く、髪型事態は気に入ってるらしい。だが最近は前髪を切りに行く時間がなくて、毎朝鏡の前で時間をかけてしまうから大変だと言う。
 やっぱり切るかなーと掻き上げたついでにぼやく高尾。プレゼント、あげるなら今しかないと思った。


「あのさー高尾」
「なに?」
「お前こういうの使ってみない?」
「なにそれ」
「カチューシャっつーの」
「ああ、それがカチューシャか」


高尾は物珍しそうにオレの手から赤色のそれを取ってまじまじと眺めた。ファッションとか気にするタイプの高尾なら、女子が使うような小物にも長けてると思ったが案外そうでもないらしい。
 どうやんの?と高尾が尋ねてきたので、オレはそれを頭に付けてやった。おお似合う似合う。


「おお…」
「いいじゃん」
「前髪が……楽!」
「だろうな。そのために持って来たんだし」
「マジ?サンキュー!」


 高尾が喜んでくれて良かった。それ、今日のラッキーアイテムなんだぜって言うと高尾は目を丸くした。お前もおは朝信者かよ!って。いや信者ってほどじゃないけど。


「まあいいや。ちょっとコレ真ちゃんにも見せてこようぜ」
「真ちゃん?」
「緑間真太郎。お前も名前くらい聞いたことあるだろ?」


 うちの偏屈なエース様だよ。高尾はまた楽しそうに話してくれた。そういえば入学式で新入生代表を務めてたな。
 真ちゃんはね、あのね、そのね…と隣のクラスに行く間ずっと喋ってた。話の尽きない男なんだな緑間は。


「真ちゃんおはよーあのね今日コレ貰っちゃ……なにそれ」


 椅子に座って腕組みしながら目を瞑る緑間に高尾が頭についた赤いカチューシャを指差しながら駆け寄った。オレも後から緑間の席へ行くと、机の上にオレがあげたものとよく似たソレが置いてあった。


「ああ高尾いい所に来たのだよ。コレをやる」


 まさかと言うか案の定、その赤いカチューシャは高尾へやる為の物だった。


「あはは真ちゃんもラッキーアイテムくれんの?でも残念。もう持ってんだよね!」
「む……そうか」


 ほら、と高尾は付けているカチューシャを見せる。ならいいのだよ。って緑間は少し残念そうに言いながら自分の持ってる物をカバンにしまった。
 てっきり緑間からも受け取るのかと思えば、高尾はそうしなかったのでちょっと優越感。



11月21日
HAPPY BIRTHDAY 高尾



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