降旗光輝
※彼女と昼食中
──ねえ、光輝くんオレには悩みがある。何かで一番になると彼女に啖呵切ってもう半年ぐらい過ぎてるのだが未だ達成できてないことだ。それどころか夏の地区大会で負けてからはその話題すら出さなくなった。
彼女はもう忘れてるのか、それとももうオレに興味が無くなってしまったのか……
「ねえ、聞いてるの光輝君」
「……え?あっ、ご、ごめんっ」
聞いてなかったもう一回いって!両手を合わせて頭を下げた。まったくもう…と彼女には深いため息を吐かせてしまった。やっぱりダメだなぁオレ。
「もう一度だけだよ」
「うんお願い」
「光輝君、放課後空いてるかしら」
もちろん部活後だけど、一時間ぐらいでいいよ。と玉子焼きを食べながら言った。そのいつもと変わらぬ行動と口調に一瞬だけ自分の鼓動が激しくなったのを感じた。
放課後、いつになったら一番になってくれるのと彼女は言うつもりだろう。そして別れ話を持ちかけてくるに決まってる。きっとそうだ。
「えーと。た、ぶん……」
「微妙な反応だね」
「ごめん」
だって放課後には別れ話が待ってるんだろう。それを分かっていながら「うん」とうなずく事がなかった。
「じゃあ今でいいや」
「えっ」
「だって暇でしょ?」
「うん、や、ちょっと…心の準備が…」
なんだかいつもより淡白な彼女。なんかサクサク進めちゃってるけどつまり君はもうオレに冷めてるってことなのか。それならもういっそオレからフッてしまえば…
「あ、あああのさぁ!」
「なあに光輝君?」
「えっと、えー……」
勇気を出して言うんだ降旗光輝。フられるなんて後味悪いことしたら河原や福田によってこの先ずっと笑いの種されるのは目に見えてる。すっきりきっぱり別れようと言えばいいだけなんだから、さあ思い切って
「あのさ!」
「うん」
「…………………」
「うん?」
「……なんでもないです」
「変な光輝君」
言えなかった。とガックリ肩を落としてうなだれるオレを見て彼女はカラカラと笑った。どうしてオレにはこうも度胸というか思い切りがないのだろう。思い返してみれば、彼女に告白した時が一番頑張ってた。
「もう光輝君ったら」
じゃあ私からでいいわよね。彼女はカバンのチャックを開けてごそごそと中を漁った。なにが出てくるんだろう。今までに上げたアクセサリーとかストラップとか…あとうちの合鍵とかが返ってくるのかな。そうなると彼女とやり直すのは一生無理だろうな。なんだか悲しくなってきた。
すると、あったあった。と彼女は準備を整えた。
「はーい光輝君お誕生日おめでとー!」
「……え?」
電灯の光に反射してきらきらと光る丸いものが鞄から出てくる。バラバラ、バラ。それは手の平ほども大きな物もあれば小さい物もある、金のコインだった。一つを手にとって確認してみれば、それらはアルミの包みでくるまれたチョコレートだった。
「なに、これ…」
「いや一目見た瞬間、金メダルみたいとか思って…」
誕生日のプレゼント用にと思わず買ってしまったらしい。そういえば、今日はオレの誕生日だったっけ。
「でもなんで金メダル?」
もしや、いつまでも一番にならないオレへの当て付けじゃないか。
「オレ…まだ一番になってないから…」
「ああ落ち込まないでよ光輝君!」
君にはもう立派な一番になってるじゃない!って彼女はコイン型のチョコレートにキスをする。ほのかに頬も赤らんでるように見えた。
「私にとって、一番なのは光輝だけよ?」
11月8日
HAPPY BIRTHDAY 降旗(オレもうお前に一生ついてく)
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