氷室辰也
※アメリカでの話
ストリートコートでいつも通りバスケをしていた時のことだった。今日はオレとタツヤしかいない。多分みんな家事手伝いで忙しいんだろう。
「ねえ、今日ホームパーティをするんだけど」
「は?」
取り損ねたボールを拾いもせずに、タツヤはこっちを見たままそんな事を言った。今日?なんで今日なんだ。
「ハロウィンにはまだちょっと早いだろ」
「ハロウィンじゃないよ、誕生日」
「誰の?」
「オレの」
「……へー」
見た目からして純日本人で根暗なタツヤはそんなアメリカンなホームパーティするわけ無いと、ここで生まれて育ったオレは思っていた。
「うちの父さんがそういうの好きなんだよ…あと、今失礼なこと考えただろ」
「……ごめん」
ビシッと指を差された。本当、タツヤってこういう勘だけは鋭いんだから。
「で、来るの来ないの?」
「んー…行くよ。手土産になんか持っていくから期待してるといい」
前々からあげようと思ってたモノがあるんだ。今まで機会がつかめなくて渡せなかったやつ。埃を被ってしまう前に、漸く渡せるチャンスが来た。
「そうと決まれば家に帰って準備しなきゃ」
オレはパーティーが楽しみになってきた。転がったボールを足で蹴って拾い上げ、タツヤに投げる。
「じゃあなタツヤ」
「ああ。今晩うちに」
はいよー。と手を振ってオレは家に戻った。
:
ぴーんぽーん。
真っ白な木製の扉の前に立ってインターホンを押した。はーい、とタツヤのお母さんの声が二階の方から聞こえ、次に「オレが出るよ」とタツヤの声が扉のすぐ近くでした。
「やあ、いらっしゃい」
「こんばんはタツヤ。今日は及び頂いて光栄だよ」
いつも使わない言葉遣いのせいか所々で噛みそうになったけど、どうにか言い切った。母さん、オレやったよ。
「さあ入ってよ。今日は君とオレしかいないんだ」
「……え?」
そっと微笑むタツヤ。オレの聞き間違いでなければ、呼ばれたのは…オレだけ?
「なんで…だって親父さんこういうの好きなんだろ?てっきりもっと呼んだのかと…」
状況をうまく把握しきれてなくわたわたしてるオレを、タツヤはいつものようにうすく笑ってリビングへ案内してくれる。
リビングにはホームパーティー…というか普通の誕生会の用意がされていた。テーブル中央にはケーキがのっている。
「オレがこれでいいって言ったんだ」
「お前とオレだけって?」
「そう」
「……そうなんだ」
まだ驚きを隠せてないオレは女みたくタツヤにエスコートされて席についた。おばさんがたくさんの料理をキッチンから運んでテーブルに並べていき、親父さんはろうそくとマッチを持ってスタンバイしている。
「なあ、オレがろうそくに火を点けてもいいかな?」
自分もタツヤのために何かしたい。そういうと、おばさんもおじさんも喜んでくれた。
ああ、なんかオレも楽しくなってきたぞ。
「ふふっ」
「……なんだよタツヤ」
「いや別に…楽しそうだなと思ってさ」
バスケの時はとってもクールなあのタツヤが肩を震わせて笑ってる。
「なあ、タツヤは楽しいか?」
「もちろんだよ」
君がいるだけで。なんて言ってオレの頭をそっと撫でた。そんな甘い言葉はお前にはまだ早いだろ。
「さ、準備ができたら食べましょうか!」
ろうそくに火を灯し、誕生会が始まった
10月30日
HAPPY BIRTHDAY 氷室!‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
アメリカ滞在中の誕生会。
誕生日すらも攻めのタツヤでした。
ちなみにあげようと思ってたモノとは、お揃いのリストバンド
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