帰り道 (1/5)
「お待たせ。藤井」
『おう、すっげー待ってた』
水道に腰掛けて手をひらひら振る。
制服姿の黄瀬はエナメルバックを持って出てきた
「アンタはまたそうやって…」
『ん?』
「いや、なんでもないっス」
『あっそ』
オレは水道から腰を上げた。
『オレ、そろそろ帰りたいんだけど』
「だったらオレも途中まで付き合うっス」
『なんで?』
「聞きたいことあるんで」
『まだあんのかよ』
正直、めんどくさいんだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『…………』
「…………」
2人で歩き始めたはいいが会話が無い。
それどころか、黄瀬を見かけては騒ぐ女子高生達の声がうるさかった。
「きゃー黄瀬くーん」
「部活お疲れ様ー!」
「次は応援行くから!」
……などなど。
それにいちいち手を振って返す黄瀬がスゴいと思わなくもない。
しかし熱烈なファンの黄色い声はちょっと違った。
「黄瀬くーん大スキー」
「隣の子だれ!?」
「彼女だったりするのー?」
……とかね。
どうやら、黄瀬の隣に立つオレの不満があるらしい。
「気にしなくっていいっスよ、藤井」
黄瀬もそれには困ったようで、苦笑している。
『でも…気になるよ。』
邪険に扱われる自分が惨めで、オレはうなだれるしかなかった。
『せめて、オレももうちょっと格好良かったらな………』
仕事仲間ぐらいには、見られたかもしれない。
「藤井はカッコよくなる必要はないっスよ」
『なにそれ?』
無駄な努力はするなということか?
「いや、違くって…」
『えっ?』
ニヤリと笑った黄瀬はオレの腕を引くと、体を奴の胸に預ける形になった。
「アンタはこーいうほうが似合うよ」
『なっ、おまっ…』
バカップルみたいな格好させやがって!
「黄瀬本気なの!?」
「嘘よぉー」
「アタシと代わりなさいよっ」
そういって、ファンの女子高生が詰め寄ってくる。
「ごめんね皆。そういう事だから邪魔しないでね」
営業スマイル全開の黄瀬は、オレの肩を抱いてすたすた歩く。
『バ、バカ!黄瀬っ!離せ…』
抵抗するもこのバカは知らんぷり。
ひと気が無くなるまでそうやって歩いた。
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