誘惑に負けたの (3/3)
『離れろ柏木ィィイ〜』
「もうちょい充電ー」
『ふざけんな!』
列のど真ん中でこんな騒いでたら恥ずかしいだろ!
オレが!
「あの……」
柏木の登場に驚いていた伊月先輩は、困ったように呟いた。
「あれ?直也、もしかしてデートだったの?」
『ち、違う違う!』
「そうそう、オレたちは偶々此処で出会っただけだよ」
『うん?』
出会っただけ?
先輩なに言ってるの?
「アイス買おうと思ってたんだけど、そろそろ電車の時間があれだから帰るわ。2人で楽しんでね?」
腕時計を確認した先輩は手をひらひら振って、列を抜けた。
「変なこと聞いてごめんね」
去りぎわに、耳元にそう囁いて伊月先輩は帰ってしまった。
「………オレ、邪魔しちゃった?」
柏木が心配そうな顔して聞いた。
『ううん。そんな事ないよ…』
先輩が、何を思って帰ってしまったのかは謎だけど。
「次のお客様ーご注文はお決まりですか?」
『へ?』
「お決まりですか?」
いや二度言わなくても分かるけど…
『先輩、奢る前に帰っちゃった』
トリプルを3つ頼むつもりだったのに。
「あ、じゃあベリーベリーとマウンテンとホッピングで」
「かしこまりましたー」
レジのお姉さんは笑顔で会計をしてくれた。
…いや待て、オレが頼んでない!
『勝手に頼むな柏木ぃ!自分で払え!!』
「いやだって財布もってきてねーしぃー」
『てめぇっ』
結局オレが、自分のと柏木のを払うハメになってしまった。
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