買ってきて (3/5)
「ちょっとパン買ってきて」
単刀直入に、カントクさんは言った
「は?パン?」
『パシり……ですか?』
「人聞きの悪いこといわないで」
『…じゃあなんですか?』
「………な、なんだっていいじゃない」
『そーデスね』
結局、パシリなんじゃないか。
まあ、追求はしないけど
「実は誠凛高校の売店では毎月25日だけ、数量限定で特別なパンが売られるんだ。それを食べれば恋愛でも部活でも必勝を約束される(という噂の)幻のパン、イベリコ豚カツサンドパン三大珍味(キャビア・フォアグラ・トリュフ)のせ!!2800円!!!」
『ほ、ほー……』
「高っけぇ!!……し、やりすぎて逆に品がねえ!!」
ホント、そんなにごちゃごちゃ乗せて美味しいものなのかな。
「海常にも勝ったし練習も好調、ついでに幻のパンもゲットして弾みをつけるぞ!ってワケだ!」
「けど狙ってるのは私達だけじゃないわ。いつもよりちょっとだけ混むのよ」
購買の風景を思い出したカントクさんは、冷や汗をかいていた。
つまり、それほどの混雑だということだ。
「パン買ってくるだけだろ?チョロいじゃんですよ」
「ほい!」
『茶封筒?』
「金はもちろん2年生が出す。ついでにみんなの昼メシも買ってきて。ただし失敗したら……」
『……したら?』
ここで、日向先輩のスイッチが入る音がした。
……気がした。
「釣りはいらねーよ。今後、筋トレとフットワークが3倍になるだけだ」
気のせいじゃなくて、バッチリ勝負所に切り替わっていた。
『(お昼も勝負所!?)』
素敵な笑顔なはずなのに、話してる言葉が恐ろしい。
「ホラ、早く行かないとなくなっちゃうぞ。大丈夫、去年オレらも買えたし」
「伊月センパイ……」
「パン買うだけ…パン……パンダのエサはパ『「「「行ってきます」」」』
もう、このやりとりが自然体になりつつある。
嗚呼、慣れって恐ろしい。
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