昔々のことでした (3/3)
「オマエのバスケは素晴らしい…でも、僕らのバスケには合わないんだ。」だから邪魔なんだと、アイツは言った。でも、"勝ち"が当たり前のアイツの気持ちはオレには分からなかった。
だからつい反抗してしまった。
『"勝った"ってことは、オレは間違ってねぇて事の証明だろ』アイツの言い分も、オレの言い訳も、あながち間違いじゃない。
でも、それじゃお互いの気は晴れなかったんだ。
『なんでオレのバスケはダメなのか。アイツは最後まで教えてはくれなかった』
「ふーん…」
『うん。』
「……………」
『……………』
沈黙が続くこと数秒。
水の流れる音だけが響いた。
「………で?」
『で、オレはバスケ部を辞めた』
「辞めたって……その人と喧嘩したのが理由?」
『そうだって言ってんじゃん』
あまりにも素っ気ないオレの退部理由。黄瀬は唖然としていた。
「でも、それだけじゃないっスよね?他にももっと理由が……」
『あーダメダメ。こっから先の話は複雑なので有料でーす』
胸の前で腕をクロスさせ、黄瀬の言葉を遮った。
「じゃあ、じゃあアンタの言う"アイツ"ってもしかして……」
『あーあー聞こえないー…………っくしょん!』
耳に手をあてたら、肩にかけてたタオルが落ちた。
すると丁度風が吹いた。
『寒!』
そよそよ吹く風は、オレの体温を簡単に奪っていく。
「そーいや、藤井のシャツ濡れっぱなしでしたね…」
『誰のせいだとおもっ…っくしょん、いっくしょん!』
ヤバイ
これは風邪引くフラグが…
「おい黄瀬!いつまでサボってるきだ!……て、なんだ。あんた此処にいたのか」
『ど、どうも』
黄瀬が開けっ放しにしていたドアから出てきたのは、海常の主将だった。
名前は確か、笠松。
「誠凜さん先帰ったぞ」
『帰った!?』
あわてて携帯見たら「カバンは持ってくから1人で学校まで来なさい」と、カントクさんからメールが。
良かった。財布持ち歩いてて。
「っつーかなんで濡れてんの?」
『実は、……』
オレの昔話はスッ飛ばして、黄瀬の都合の悪いトコだけ話した。
「てめぇはバカか!?謝れ!」
「いてっ、いって!」
笠松さんの回し蹴りは黄瀬の背中にクリーンヒットしてた。
なんだか、黄瀬が可哀想だ。
『笠松さん、もうその辺に………
はっくしょん!』
一番でかいくしゃみが出た。
オレはタオルを拾い上げて被る。
「バカかおめぇも!」
『へ?』
「んな格好で外いたら風邪引くだろ?中入れ!」
『え?ちょ、ちょっと……痛いですよっ』
笠松さんの苛々の矛先はいつのまにかオレに向かってた。
彼は乱暴にオレの腕を掴むと、体育館に引き摺っていった。
「……あんな慌てた笠松先輩、初めてっス」
外には、洗いかけのタオルと黄瀬だけが残っていた
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