昔々のことでした (1/3)
『黄瀬……』
「なにやってんスか」
扉の向こうから現われたのは黄瀬だった。
『なにって…タオル洗ってんだよ』
テツヤの血がついたタオル。
それをわざとらしく持ち上げて見せたら、黄瀬は眉間にしわを寄せた。
『気にしなくていいよ。本人はいたって元気そうだから』
……って、なんでオレは怪我させた張本人を慰めてるんだろう。
「……そうっスか」
『あ、ああ。』
黄瀬も黄瀬で、オレの言葉聞いたとたん、安心した顔しやがるし。
ああ、やっぱりコイツは苦手だ。
調子狂う。
……そうだ。
無視しよう。無視。
会話が面倒なので直ぐに目をそらしてタオルを洗い始める。
「藤井」
『…………』
黄瀬は、オレとは反対側の蛇口の前に立った。
……無視だ。これは虫だ。
「なにやってんスか?」
『…………』
「ねえねえー」
『…………』
「藤井ってば!」
『…………』
つったったままの黄瀬は執拗に話し掛けてくる。
それをシカトし続けると、奴は苛立ち始めた。
そして……
シャワー…
『うっわ、冷て!何すんだよ黄瀬!』
まるで子供みたいに口を尖らせて拗ねた黄瀬は水の出ている蛇口に手を当てて、水を撒き散らした。
「なんで無視するんスか、オレのこと!」
黄瀬は容赦なく水をぶっかけてくる
咄嗟に両腕で顔を隠すが、あまりの水量でそれは意味をなしてない。
ものの数秒でTシャツはびちょびちょだ。
『オレはオマエと話すことなんかない!だから口利く必要もない!』
「オレはあるっス!」
だからなんだ。
無視したからって水をかける必要はないじゃないか。
『〜〜っもう!わかったから!聞いてあげるから水止めてっ』
「ホントっスね!?」
『ホントホント!約束する!』
そこまで言って、やっと雨のような水の攻撃が終わった。
「じゃあ先ずは『待った』
「?」
早速質問し始めた黄瀬。
オレはそれに待ったをかけた。
『タオル貸せ』
オマエのせいで、全身びちょびちょなんだよ。オレ。
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