鈍った身体と心 (1/5)
「なーなー、体育ん時やったあのスーパーショット…あれマジすごかった!オレさ、オマエに惚れちゃったよ直也!!」
放課後の教室。
帰り支度をしている最中に、上機嫌な柏木やってきた。
『男に惚れられてもキモいだけなんだけど』
当たり前のように肩に置かれた腕を、オレは払い落とす。
「アウチ!相変わらず冷たい野郎だね直也君!でもオレは諦めないよ、君のハートを奪うまで
ばっ」
『ウザイっつーの』
カバンに入れようと手に取った化学の教科書で、柏木の顔面を強打してやった。
そーいうセリフはクラスの女子にでも言ってやれ。
柏木、一応イケメンだからな…
『ほら、お前もう部活行け』
シッシ、と手を振って教室から追い出す。柏木は淋しそうに駄々をこのねたが容赦なく扉を閉めてやった。
◇ ◇ ◇
『……そろそろ帰るか』
雨も止みそうにないし。柏木も部活に行ったし。アイツが以内と意外と寂しいもんだ。
オレは弄っていた携帯を閉じて席を立ち、部屋をあとにした。
───いや、あとにしようとした
ガラッ
『あれ?開いた……』
扉を開けようと伸ばした手は空をきり、「自動で開きやがった!?」なんて内心驚いてるオレ。
そんなオレは格子の向こうにいる人影(多分扉を開けてくれた人)に気付いて見上げた。
「よう藤井。もう帰るのか?」
『…なんの用だい?火神』
目の前にいたのはなんと隣のクラスの火神君だった。あれ、あんた部活中だよな
「オマエ、帝光ではバスケ部だったんだな」
『…才能ないから辞めたけどね』
テツヤに聞いたな…あのお喋りめ。
邪魔だからどいてくれない?そう呟いて火神を睨み上げると、彼の二股の眉毛はぴくりと大きく動いた。
「才能無いなんて嘘だろ。アレだけの力を持ってんのに何でバスケ部に入んねぇ」
『だって1年教室って体育館から一番遠いんだよ?毎日通うのめんどくせっ……!!?』
オレのセリフは最後まで言わせて貰えなかった。
『ちょっと火神何するんだ!?』
気が付いたらオレは、火神の肩に担がれていた。
みぞおち痛いんですケド。
『じゃなくて、どこに連れて行く気なんだよ!離せッ』
肩の上で暴れると振り落とされる危険性があるので、わりと自由の利く手で背中を叩いて反抗する。
しかし火神にはきかないようで。
「黙ってろ藤井!行くのが面倒なら毎日オレが連れていってやる……だからバスケ部に入れ!!」
『はぁ!?バカじゃねぇのオマエ。こんな勧誘の仕方あるかよ!』
今のオレにできる目一杯の抵抗をしてみせるも火神に反応なし。
ああ、オレはこのまま体育館へ連行されるのか……
鞄、廊下に落としたままなのに。盗まれないといいなぁなんて、小さくなってく教室を見送った。
prev|back|next