坊主、嫌い (2/2)
「正邦は古武術を使うのよ」
選手をベンチに座らせ、自分はしゃがみ込んだカントクさんは言った。
「古武術……!?アチョー!?」
「蹴らないしそれ古武術チガウ!」
『火神君、君は想像力も乏しいんだな』
こんな緊張感漂う場面にしてボケるとは。
試合に興味がないオレでも、流石にイラっと来るぞ。
「じゃなくて、正確に言うと"古武術の動き"を取り入れてるの。その技術の一つに"ナンバ走り"っていうのがあるわ。普通は手足を交互に振って走るけど、ナンバ走りは同じ側の手足を振って走る」
『ま、体をねじらないからエネルギーロスを減らせるらしいね』
「よく知ってるな」
主将が感心したように呟いた。
『昔の月バスで見たんすよ』
本屋で立ち読みした知識が役に立って良かった。
「ナンバ走りの他にもふんばらずに力を出したりタメを作らず速く動いたり色んな基本動作に古武術を応用してる。それが正邦の強さなのよ」
でも、そうだと知ってても試合中の違和感は脱げ得ない。
「けど消えたり飛んだりするわけじゃないわ。相手は同じ高校生よ!
フェイクにもかかるし不意をつかれればバランスも崩れる。やってるのは同じバスケット。いつも通りやればちゃんと通用するわ。まだテンパるとこじゃないわよ!」
『あの手のものは、慣れしかないですから』
最後にひとこと言って、カントクが皆に気合いを入れさせた。
『流れが変わるといいけど…』
タイムが終わると、選手達は再びコートの中へ。
ボールはすぐに火神君のもとへ行った。
しかし相変わらず坊主の密着プレイが続いている
『いけるか!?』
火神は技巧をふんだんに取り入れたドライブで坊主を抜くと、シュートを決めた。
ようやく、誠凜のカウンターが回る
「おおお、マジか今!?」
「はえぇ―電光石火!!!」
今のシュートに観客はどよめいた。
「へえぇ……初めて見たぞ、オマエが抜かれるとこ」
「……ははは。いや、これからですよ〜楽しくて苦しいのは!」
対して坊主は、あまり落ち込んでいる様子は見受けなかった。
むしろ、何か企んでる顔してる
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