一年越しの (3/3)
『……いつにも増して、暗い』
試合直前の控え室は、どんよりと空気が重かった。
「全員ちょっと気負いすぎよ……元気でるように一つごほうび考えたわ!」
少しでも肩の力が抜けるようにと、カントクが何か提案しだした。
「次の試合に勝ったら……みんなのホッペにチューしてあげる!どーだ!!」
『どーだと言われましても……』
皆どん引きだ。
カントクから数歩離れつつ、複雑な表情をしている。
「バカヤロー義理でもそこは喜べよ!」
『主将、それは……』
主将のフォローならぬフォローによって、カントクは完全に打ち拉がれた。
『先輩、大丈夫っすか?』
「……フ、フフフ」
「カントク……?」
『先輩?』
怪しげな笑顔と笑い方。
倒れこんでいたカントクさんはゆったりと立ち上がった。
「ガタガタ言わんとシャキッとせんかボケ――!!去年の借り返すんだろがええおいっ!?一年分利子ついてえらい額になってんぞコラ────!!!」
『ちょ、センパッ………いったぁ!!?』
んぎゃー!と暴れたカントクさんは、手近にあったオレの背中に拳を一発入れた。
『なんで、いつもオレ!?』
カントクさんも泣き目だけど、オレも涙出るよ。
痛くて
「わりーわりーわかってるよ」
主将はオレの背中を擦りながら、笑いをこらえて言っていた。
「…おっしゃ!!……行く前に改めて言っとく。試合始まればすぐ体感するけど、一年はちゃんと腹くくっとけよ。正邦は強い!ぶっちゃけ去年の大敗でオレらはバスケが嫌いになってもうちょいでバスケやめそうになった」
『………マジっすか』
先輩の口調は明るいのに、周りの雰囲気が暗くなってしまった。
「うわ!暗くなんな!立ち直ったし!元気だし!むしろ喜んでんだよ!去年とは同じには絶対ならねー。それだけは確信出来る位強くなった自信があるからな!」
『…………』
主将は爽やかな笑顔で言い切った。
他の先輩方も、きっと誇れるだけのモノを持っているのだろう。
彼らの表情には陰りが無かった。
「あとは勝つだけだ!いくぞ!」
「「「「「オオウ!!!」」」」」
『………オーウ。』
自分だけ彼らの抱える思いとやらに感情移入できなくて、なんだか疎外感を感じた。
『勝つために、か……』
そこまで勝ちにこだわったことないからな……オレ。
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