キーンコーン、カーンコーン…と午前の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。先生は話し足りないようだったけど、生徒はもう昼休みモードだ。大半はさっさと教科書を閉じロッカーや机の中にねじ込む。起立して、ルーム長が礼と言ったのとほぼ同じに教室を飛びだす者もいた。たぶん購買にパンを買いに行ったのだろう…などと言っても、昼休みが待ち遠しかったのは彼らだけじゃない。私もだ。
いつもならこの後、人が少なくなった購買へ行って余り物のパンを値切ってもらうのだが今日は違った。私はカバンから包みを2つ取り出す。


「あれ?花子、弁当2つ持ってんじゃん」


欲張りだね、ってクラスメイトの梓が笑った。友達のを作ってきたのだと言うと梓はまた笑った。


「このリア充め!」
「違います…」
「照れちゃってまたまたぁ」
「……違いますよ」
「あら、そう」


一応それ以上は突っ込んでこなかった梓だが、おそらく納得はしてないだろう。
まったく意味がわからない。これは単に、なかなか部活に行かない青峰君に困り果ててる桃井さんを助けるつもりで言った口約束だ。「青峰君、青峰君」と泣きそうな表情で学校中を歩き回ってるのを何度も見てたから、つい助けたくなっただけ。そう、けっして青峰君のためだとかじゃない。


「それじゃあ私はこれで」
「また屋上?いってらっしゃい」


行ってきます。と梓に返し、お弁当を二つ抱えて席を立った。梓とは別段仲良しというわけでもなかったが、クラスメイトの中では話すほうだ。明るくてよく喋る彼女は人望も集めてるクラスの中心的存在。
自分から言葉を発する事が少ない空気のような私に、梓はよく話し掛けてくれていた。



「いって!おい止めろよさつき!」


廊下に出ると、青峰君らしき声がした。どうやら階段の方から聞こえてくると分かった私はそっちに足を運んだ。桃井さん絡みということはバスケ部関連だろう。自分が行ってどうにかできるわけじゃないけど、でも行ってみたい。しょせん野次馬精神でしかない。


「行かねぇよめんどくせぇ」
「ダーメ。今週末はテツくんとこと試合なのよ?昼のミーティングくらい来なさい」
「行っても無駄だっつーの」


だから離せよいてぇから。ダメよ青峰君逃げちゃうもの。当たり前だろ、誰がいくか。って口論しながら桃井さんが青峰君の耳を容赦なく掴んで下に降りていくのが見えた。ミーティングがうんぬんと言ってたから行き先は体育館だろう。


「……とりあえず屋上行こう」


あの様子だと、今日は屋上に来ないかもしれない。でも来るかもしれない。実際のところ私に彼の行動パターンなんてわかるわけもないが、なんとなく後者であるような気がした。



 :



キーンコーン、カーンコーン。
やけに間延びしたチャイム音が鳴った。これはお昼休みの終わりを示し、同時に午後の授業開始を知らせる。校庭からは熱血な体育教師の怒声が飛ぶ。声帯凄いなぁと感心する私は、お弁当の包みをふたつほど膝の上に乗せたまま屋上のペイントハウスの上で空を眺めていた。
私と同じ水色のソラ。だけど、この広大なソラは何処までも続きどんな人の目にも入る。ソラを見たことない人なんていないだろう。それが私との違いだ。
今こうして授業をサボっていたとしても多分、教室では私が居ないことに気付いていない。今までもけっこうな数サボってきたけど、欠席扱いされたのはほんの数回だ。担任からは「出席を主張してくれ」って言われたこともあるが、そんなのできたら最初からやってる。


「食べてしまおうかな」


膝の上にある弁当ふたつに目を落とす。保冷は一応してあるけどやっぱり夏場は長時間置けない。それに手をつけてないお弁当を持って帰っては家でなんて言われるか分からない。きっと怒りはしないだろうけど居心地は悪くなる。
時間をかければ食べれるだろう。私はピンクの包みと青色の包みを開けた。うわあ、さすがに凄い量。私は覚悟を決めて両手を合わせた。


「いただきます」
「てめぇひとりで食う気かよ」
「…青峰君」


ちょっと太くて低い、だけど聞き取りやすい声が頭上から降ってきた。と、同時に箸に差していたウインナーが浅黒い肌に消える。


「ミーティングは?」
「終わったわボケ」
「そうですか」


はあ、と大きく息をついて私の向かい側に座る青峰君。もぐもぐと口がよく動く。それに息も上がってるのか肩がこまめに上下してる。急いで来たのかな。


「お前、二つ食うのか?」
「え…いえ」
「じゃあよこせ」
「はい、」


どうぞ。と言う前に青峰君は大きい方の弁当を奪っていった。箸入れから取り出すのもまどろっこしいのか私の持っていたのをさも当然の様に取っていった。返してと言っても無駄なようなので私はもう一つの箸を出して弁当を食べ進めた。
黙々。彼は案外よく噛んで食べる人だった。


「あの…美味しいですか?」
「あ?ああ、うん」


チラリと私に視線を向けただけの青峰君は手を休める事無く次々と口に運ぶ。美味しそうに食べてくれるのは何よりだ。


「今日、私がお弁当作ってきたのよくわかりましたね」


先日、部活に出る代わりにお弁当を作ると私には何の見返りもない約束をした。だけどいつ作って来るとは言ってなかった。今日も、屋上で会ったらついでにあげようかと思っていた程度だ。


「弁当二つ持ってんの見えたから」
「え、どこで…」
「階段とこ」
「見えたんですか?」
「ちらっとだけどな」


私は驚いた。あのわたわたしてた青峰君が私を…しかもお弁当まで見ていたなんてさすが腐ってもバスケ部。タダでさえ忘れられやすい私をあの一瞬で見つけたのは凄い。


「あれ?この弁当…」
「どうしました?」
「どっかで見たことある」
「……どこにでも売ってるやつですから」


持ってる人は都内だけでもごまんといるでしょう。そう言って誤魔化した。




ああそうか。
(彼は気付き始めてるのかも)

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